釣り師犬を釣る! 釣り師はなぜそこに向かったか
それはそれは切羽詰ったことでした。釣れども釣れども魚が釣れぬ、工夫の手立も効果無し。万策尽き果てて、もうこれは神仏に頼るしかないと思い始めていた頃でした。
閃いたのです。 「我が家の愛犬ゴンちゃんを釣ろう」
それは青天の霹靂、地獄に仏の着想だったのです。
動物との関わりはある程度の距離感が要るそうですが、我が家の犬は、猫可愛がりの上、人間扱いをしておりまして、いまだ「生類哀れみの令」が生きている有様。
出来ることなら選挙権のひとつもほしいくらいのことで、それは可愛がっております。 ゴンちゃんも自分のことを人間だと思っております。
いかにゴンちゃんは釣られたか?
ラインにゴンちゃんの大好きなジャーキーを結び竿を立てます。2階からそ~っと餌のジャーキーを落とし込みます。気が付かないゴンちゃん・・・・。良し、撒餌だ、ジャーキーを小さくちぎってばら撒いてみる。 あら、すぐ気が付いた。再び、釣り餌のジャーキーを落とし込みます。 ファイト一発! 喰った。
合わせのタイミングや誘いの研究にゴンちゃんありがとね。 大いに感じるものがありましたよ。
餌が近づいてくる落ち込みでも、逃げていくときの食い上げでも、当たってくる。もちろんその時誘いが有効でであるのは言うまでもありません。スピードを変えアクションを工夫し、じらしにじらして誘いを仕上げたのです。
魚に対する誘いは、犬に対するよりも少々精緻でなければなりませんがおおむね似たようなものです。
制度や仕組みに守られた人間はとうに、その能力を置き忘れ退化させていますが、魚や動物は五感に頼って生きていますから応用が利くだろうと目論んだことでした。この天才的な着想、よもや間違いは御座いますまい。
最初は見釣りで、途中から姿を隠して脈釣りに、これは、してやられてばかりでしたが、タイミングを計ってあわせると、 面白いように つ れ る。
「学習効果」なのかそのうち釣れなくなりましたが、アクションを変えてやると又釣れ始めます。「ふふふ・・」一人ほくそ笑む浪士様でした。この実験よい手立てですぞ、諸兄も試されては。 ただ周りを良く見渡して他人様の目が無いことをよく確認してからでないと、それは変わり者の烙印を押されることです。
釣りたいが為に色々手を尽くしてみるのですが、自然からは手痛い仕打ちの数々をうけるばかりで思うようには参りません。 この実験で、今後自分を五感だけの釣りにしてみようかと閃くものもあったのですが、山篭りを一生続けてもその域には到達は出来まいと、不浄でよこしまな自分が分かるだけに早々に諦めた事でした。
その後、ちょいとした隙にゴンちゃん、一週間分のおやつの入ったジャーキー袋をごっそり加えて逃げてしまいました。
大物をバラシた時の気分まで、実験で確認させられるとは、これは余分でした。