井伏鱒二先生 備後あこう浪士 ただいま参上仕りました!
ふくやま文学館
地元 福山出身の文学者を祭ってある社 のような所。
いえね、わたしゃ決して文学者を気取ろうなんて思って居るわけではないのです。いえちょいと以前伺ったときから気になる事があって、もう一度確かめようと思って、随分と場違いな所に顔を抱いた次第でございます。
「あの、井伏さんの展示を見せてください」
「ごゆっくりどうぞ」
「あの以前展示してあった、「浮き」や「道具類」が無くなってますが?」
「ええ、お借りして展示する場合もありますし、所蔵品もすべての展示というわけでもありません」
「へびの模様の竿、以前パネル写真があったのですが、展示して無いんですね?」
「はい」
「パンフレットにその竿載ってるとか?何か資料はありませんか?」
「600円です。この資料集、小冊子にあります」
随分、親切丁寧、商売上手で卒が無い応対。だがどこかよそよそしい、完全に引いて一定の距離を崩しません。かく成る上は、気持ちのときほぐしを・・・。
「気にしていた展示品が無かったので、資金繰りに叩き売ったのかとおもいましたよ」
「・・・・・・・・」
はい、分かった公務員丸出し接待手法は、よ~く分かりました。別段こちとら獲って食おうてんじゃあねえ、ちったあ気の小さい小市民に潤いのある対応てえものは出来ないのかね、気の利いた冗談のひとつも切り返してくれりゃあ、町内総ざらえで、参観に参りやす。なにも、展示品をちょいと拝借しようなんかこれぽっちも思っちゃあいません。いえいえ呉れるとゆうものは頂きますがね。
はい、ごめんなさい、私が悪うございました。上品の極みの様なところに人相風体怪しいものが現れまして。 海坊主が日に焼けて、獲物を追いかけるオーラをそこらじゅうにばら撒いて現れたのですから無理もありません。 上品な弱そうなやつばっかり日頃相手にしているのですから無い物ねだりでした。
ほんとにごめんなさい。 もう来ませんから許してください。
横を向いて見て下さい。 頭は左に傾けたほうが・・・・
この竿が問題なのです。私は研究者では有りませんから、以前見たこの写真からずっとある違和感を覚えていたのです。
問題は、この竿の紋様です。一般的にこのような「竿を見てくれ」といわんばかりの彩色、紋様竿は振りまわさないものだからです。竿は魚を釣る道具ですから、大事な道具ですが釣りの最中は、その紋様などはまったく不要のものなのです。道具として存在すればよい事でそれ以外の要素は不要なのです。
どのような心持で井伏さんはこの竿を振り回されたのでしょうか。
「秋の夜や いやです 駄目です いけません」 どなたの句でしたでしょうか。
写真は ふくやま文学館発行 井伏鱒二 釣り文学への招待 より転載しました