備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

ノリさんは飛島の漁師だ!

 ノリさんは飛島の漁師だ。 

 

 笠岡諸島の一番端っこの小さな島で、生まれながらの漁師の渡世だ。

 

 穏やかな奥さんは、聞かん気の強い主人に黙って従って小さな民宿をやっている。二人ともこの島で生まれて結婚した。

 

 

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                 何の夢かな

 

 

 

 ノリさんに最初に出会ったら、誰でも逃げ道のひとつや二つ算段しなければならない。狡猾な魚と騙し合いをしてその殺気が人相に出ているし、日に炙ったその顔はこの世のものとは思えぬくらい赤銅色だ。高倉健のようなすらりとした作りの体からは、よそ者は寄せ付けないという「気」を、これでもかというぐらい発している。宇崎竜童似の顔はめったな事では笑わないし、まとわり付く眼光も鋭いのだ。

 

           さて逃げ道だ。 いかんここは島だ。

 

 ノリさんは宇崎竜童の顔をたわしで擦ったような人相も怖いが、性質も一本気でこれまた扱いに困る。一旦思い込んだら神様が説得しても動くものでは無いし、人民解放軍が束になって掛かって来ても駄目なものは駄目なのだから、駄目なのだ。

 

 ところがだ、この10年ばっかり笑った事が無い顔が気脈を通ずると「二カッ・」と音を立てて笑う。赤銅色の顔に白い歯が横開きに並ぶと、泣きそうになるくらい愛想が崩れる。人はこうも様相を変えるのである。

 

 おいノリさん、そんなに無防備に人を受け入れちゃあいかん。こっちは相当にすれっからしで性格も悪いんだから。もっと用心しなきゃあ、とこっちが心配するくらいになるのです。

 

 

ノリさんは言う。

 

 の「ひとしきりに比べ海は綺麗になって、見てみい 澄んどるじゃろう」

 あ「おお、これで魚も住み易うなって、増えてくるなあ、よし根こそぎ釣りあげる

   か」

 の「それがじゃ、この水は魚を育てきらん、綺麗は綺麗でも育たん綺麗さじゃ」

 

 来る日も来る日も海の水を眺めてきたのである。些細な海水の変化など漁師にとっては死活問題なのであるから海面に目を凝らすのだ。目に宿っているこの変化は深刻なのだ。釣り師も潮のちょっとした変化には敏感だ。潮の変わり目が魚が釣れる潮時なので真剣にならざるを得ない。私らには分からないがもっと細かいのだろう、ノリさんの目に映る変化は。

 

 の「魚が獲れんようになって、単価も下がって、わしらも大変よう」

 あ「稚魚の放流やら、養殖でも考えんかい」

 の「元がいけんのじゃ、元が・・・・」

 

 瀬戸内海もひところに比べれば海水は確かに綺麗になった、しかし魚を育む藻場は壊滅状態だし干潟なども埋め立てられて猫の額ほどだ。汚染水は薬剤で見た目を綺麗にする体たらく。釣り師もただ魚を釣っていればいいよき時代と違って考えねばならぬ時が来ているのかもしれない。

 

 海が命を育む体力を消耗させられた時から、栽培漁業だの放流事業だのと、表向きは取り繕う言い訳は準備されているのだが、基本的な生産能力が落ちたままなら、種々の施策もそれは茶番だ。

 

やはり海は海でなければなりませぬ。

 

 

 

 両肩が一寸下がった風に見えるノリさんを見るに付け・・

      はて どうしたものやら。