竿をかざすと魚が寄ってくる銘竿はいか程か!
「さてお立会い、時間とお暇のある方は聴かなきゃ損だよ。御用と御急ぎの方は今回はご縁が無かったってえことで、どいとくれ混み合いますからね。明日はもう無いからね、後で後悔したって、裁判所も相手になんかしてくれませんよ! あ おばさん下がって下がって・・これから話すこたあめったに無い大特ダネだ、耳の穴カッポじってしっかり聞いとくれ」
「さあ善男善女の皆様方、ここに取りい出だしたる何の変哲も無い竹竿、普通ならお足をつけても引き取り手の無い竹の棒だ。皆様を騙そうって分けじゃありません、世知辛い世の中皆様方に豊かになってもらう手はずの話しだ。疑っちゃあいけません! あっしは悪さはするが嘘はつかねえ、その辺の安っぽい政治家の先生とは違うんだ。(信ずるものは救われる)お釈迦様がそうおっしゃってる、鰯の頭も信心だ、さあちょいと小声で話すから、近う寄れ・・・」
「さて、この竹の棒、実は釣竿だ。 江戸の頃の仙人釣り師に教えてもらって作った竿だ。 なに?随分安っぽそうだと? まあまて今にほえ面掻かしてやるわい。」
「この竹竿、他の竿とどう違うか?ここが大事だ よ~く聞け!この竿を流れにかざすと魚が勝手に寄ってきていくらでも釣れるという代物だ!釣りの腕なんか関係ねえ、勝手に寄って勝手に釣れる、どうだ?魚市場丸ごと手に入れたようなもんだろう。だから浪士様は今日から名人位だ。口の利き方気をつけろ!」
「おう、そこのへたくそ、お前も欲しいだと、 ふふ譲ってやっても良いが、魚市場のごとく釣れる竿はちと高いでのう!譲るか作り方を教えるに預金通帳と印鑑を持って来い。 なに・この不景気で使い果たしただと、あとで無人君でも行って来い!」
「早く教えろだと、へたくそで、金払いの悪りい奴に限ってせっつくのう、よしよし教えてやる。」
「わしが仙人釣り師に聞いたところによると、竹、竹が勘所だ。竹は自ら滅びてゆく時に花を付ける。そうじゃな、60年から100年当たりに一回だけそれも一瞬花を付けるんじゃ。そんな竹なら探せば有る、有るんだ。ここからが難しい、竹の花が咲く、朝露が花を濡らす、その露が落ちる前、一瞬を狙って切り分けねば成らぬ。ここが難しい」
「仙人も170歳の折その竹にめぐり合って、それは釣りまくったそうじゃ。そしてその竿に 「雪滴調」と名づけたと言う事じゃ。所での、当時の大名がこの噂を聞きつけて譲れと言って千両箱を積み上げたそうじゃが、170年も掛かって手に入れた竿、おいそれとは譲れず、断ったそうじゃ、どうじゃ貧乏人、親戚廻って金集めして来い」
「まあ、あらましこう言うことだが昨日わしがこの竹を見つけてな、竿を作ったと言うわけじゃ。 竿の名前か? 「魚市場」と名付けた!」
「おいへたくそ、まあお前とは長い付き合いだ、特別価格と言うことで譲ってやっても良いが、どうだ100万で?」
「・・・・・・・ふん・・」
「もうちょっとまけてやるか、そうだな50万どうだな?・・・」
「へっ・・・・」
「手元不如意に付き、、・・・おい、たばこ銭貸してくれ!」
このお話は 「藤原悪魔」 藤原新也 文芸春秋の文中に有る昔話を脚色したものです
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