釣り場の落とし穴 いち にい さん!
さて釣りと申しますものは、余程周りに注意しなければなりません。
釣り場の釣り師は、はやっております。当然魚を早く釣りたいのは当然ですが、試してみたいことなどがありましたら、結果を早く知りたいのは世の常、わき目も振らず、なりふり構わず、はやってまいります。
福山自動車時計博物館の蝋人形 この人は今・・・
釣り場には落とし穴がありまして、釣り場ですから釣りだけという風にはなかなかまいりません。
自分の不注意で事故は生じますし、たとえ自分に非が無くとも外からの要因で痛い目に合うと言う事はしょっちゅう有ります。
たこつぼさんの場合は、筏に仕掛けてあった蛸壺を引き上げるのは良かったのだが、引き加減と波のゆれで蛸壺もろとも海中に。これは嬉しいものですよ。周りは事態を飲み込むと、助ける振りをして、気晴らしに慰み者にしてまいります。
「おい蛸壺はそうやって上げるのが流儀かい?」
「潜れ潜れ、たこ捕まえてこいや!」
「こりゃ大だこかいな」
まあ血も涙も無い追い討ちを掛けるものです。
たこつぼさんといえば、なにやらもがいております。良く見ると蛸壺のロープを握ったままあがきにあがいております。往生際のとても悪いことです。
この時は、蛸壺のロープを持ったままのたこつぼさんを助けあげたのですが、ちゃんとたこが入っていましたから、出来過ぎた話しということになります。もちろん、たこは「たこつぼさん」が持ち帰ったのは言うまでもありません。おそらくたこは痛い目に合わされたでしょう。
この事件以来、彼のことを「たこつぼさん」と呼ぶようになりまして、今では本名などと言いますものは、釣り場において通用いたしません。
ひっつりさんの場合は、どうした拍子か自分の針を唇に掛けてしまいました。
見ると片手に竿をもちもう一方の手は宙を羽ばたいておりました。唇には見事針が刺さり、餌のオキアミまでぶらついております。まことに惨めで滑稽な光景と言わざるを得ません。
「よし、抜いてやるから・・じっとしとけ!」
針は返しまで刺さって、抜き差しならぬ状態です。自分で処置できず顔は引きつったまま・・・さんざんこの時も当然おもちゃにされています。
「よし、いち にい さんで抜くからな・・」「じっとしとけ!」
「いいか行くぞ! いち にい・・・・・・・・
当然です。誰が 「さん」で抜きますか。抜いたのは 「いち」 「にい」で抜いたのです。 「さん」まで待てば往生際が悪くなるのは目に見えています。
これが針抜きの、最上級の技なのです。
このかたは次の週も釣り場に現れました。まだ唇の辺り少々の腫れが残ってひきつっております。
釣り上げられた唇が引きつっておりましたから、「ひっつりさん」の名前を襲名したのです。返す返すも釣り場では、醜態などさらけると二度目のゆり戻しがあることです。