備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

釣り場の最初の一匹

 

 

  釣り場で最初の一匹を誰が釣るかというのは大層大事な事で、手のない人などが最初に釣り上げますと「おい、それはないだろう」と心中穏やかではありません。

 

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 何か仕掛けたのか、偶然なのか考えてまいります。 位置取りやら技術で大まかな釣れ具合などは分かるもので、釣りながら辺りを探っております。

 

 釣り師などといいますものは釣り場では水を得た魚で御座いますが、陸ではかなりだらしなく情けないものとなっておりますので、せめて釣り場ぐらいは立つ瀬というものを確保したいと思うもので御座います。

 

 そこに意外な人が最初に釣り上げたとなりますと、かなり焦ってまいります。焦る乞食はもらいが少ない、にもかかわらず焦るのですから、それからの駆け引きなど忙しくなる事です。

 

 まず、どの餌で釣ったかが問題でして、当日のあたり餌に変更いたします。それからどの棚、つまりどの深さで釣ったかが問題になります。これは一連の動きを見ておりましたら、おおよそのことは判るものです。

 

 はてこれからです、総員相整いましたところで、それぞれの崩しが入ってまいります。あるものはより浅い位置に撒き餌の帯を作ってその帯に魚を集めてまいります。又有るものは前に後ろにとそれぞれ撒き餌の帯を作ります。 海中は様々な撒き餌の帯が交錯する交差点まがいのことになりまして、撒き餌の沈み具合や底の形状でどうすれば確率の高い釣りができるか考えてまいります。

難儀な事ですがこの理屈が分かっておりませんと、糠に釘打つ釣りと成って、思い切り泣きを見るのです。

 

 この日は、どうした風の吹き回しか、最初に釣り上げた釣り人に魚が集まったようで、不審顔の釣り師を横目に釣り上げてまいります。こうまで差をつけられては沽券に関わります、手立てをこってり尽くしてまいります。

 

 どの様な理屈なのかは分かりません。時として、どうにも理解の出来ぬ事がおきるのです。

釣れるはずなのに釣れない、これは神様のいたずらしか思い当たる原因がない、神様の野朗覚えていやがれ。とまあこれは言いませんが、承服できぬ事がありますと、釣り師の単純な頭は混乱してまいります。

 こうして深い奈落の底に落ちてまいりまして、アリ地獄を彷徨うのです。どの道おしゃか様の手の内、コケの生えるまで振り回されます。

 

 

「おい、ありゃあイカ油じゃ!」

「その手を繰り出しやがったか・・・・」

 

 このイカ油といいますもの、今ではほとんど使う人はおりません。一時期禁止になったと噂が流れたのですが、いかんせん臭い上に魚に臭いなどがついて、敬遠する人が出て、知識では知っているが、使う人がない有様の代物です。

 

 釣った魚が変な臭いがする事がありまして、他人様のことを考えますと、よくよく考えて餌のことなど、選ばねばなりません。

 

「おい青年、イカ油たぁ上等な事を思いついたなあ!」

 

「ご禁制の油を使うたぁ、ふてぇ野朗だ。何処の神様の許可だい?」

 

「お前さん今度から イカ油 と呼んでやらぁ」

 

「見たぞ~イカ油はイカン。もっとイカス手を考えな」

 

 

手品の種が分かってまいりますと、打つ手などいくらでもありますから、安心した釣り師は件のイカ油に、散々言い放ってまいります。

 

 

件の イカ油 ですか?

今では真人間になって細々と釣っております。