備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

瀬戸内海 孤島の二人だけの暴走族と釣り師 その2

 

 

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 「これだ!」

 

 駐在さんの脳裏に、これほど自分が有能で名探偵の素質があるのが確認されたのは人生初でありました。気持ちはすっかり「刑事コロンボ」ですから庶民と言うのはいたって単純に出来ております。事件解決の目鼻が立ったところでそれは晩酌が進むことでした。

 

 駐在さんは翌日、いつに無く悠然と構えております。道行く人にも今日はしっかり「目をあわせて」にこやかに挨拶です。いつもの犯人を取り逃がした面目なさそうな態度とは違います。上から下まで完璧に小市民です。

 

 

  橋本君の供述によると、すっかり余裕をかました駐在さんは、暴走を始めるとすぐスーパーカブで出動をしていたのが音なしに成ったそうな。こうなると島にはだれも相手してくれる人がいないのですから拍子抜けもはなはだしく成って参ります。

 

 それでも好きな道はやめられません、相変わらず野放し状態でやりたい放題、暴走をしてまいります。挑発に駐在所の廻りも入念に暴走をしてまいります。

駐在さんは、おや!にこやかに見守っているではありませんか。

 

 そんなある日、橋本君の家に駐在さんがやってきます。

「おい!従業員の橋本、おるか!」

駐在さんは橋本君の事を「従業員」と呼んだそうなのですが、これは「構成員」と間違えているらしく、島に最初にバイクを持ち込んだのが「頭」、橋本君は「構成員」なのです。

 

 橋本君は漁師で朝が早い、その代わり仕事は昼前には終わるので、それからが暴走のゴールデンタイム、島中が口中に「ドンパッチ」を入れたようになります。 単独の時もあれば、連れ立って暴走する時もあります。島の人は大概が漁師なので、休み時に大層迷惑な話です。

 

 駐在さんは島に「パカランパカラン」の音が聞えなくなった頃合を見計らって「おい!従業員」とやって来たのです。橋本君が出て行くと・・・

「まずは何はともあれ、まず一発」拳骨をかまします。

「おい!今日走っとったのはお前か?」

「ち・が・う!」 走っている時もそうでない時も、当然そう言います。

 

「おとなしく吐け! ごまかそうったって何もかもおみとうしなんじゃ!  ええかバイクのエンジンが温かったら申し開きは出来んで!・・んん?・・」

バイクのエンジンが冷たかったら「おまえじゃあないな!」と

「とりあえず、行きがけの駄賃の一発」拳骨をかまして、犯人検挙に出て行きます。

これがエンジンの熱い時、当然駐在所に引っ張られて「口直しの一発」拳骨から始まって、たっぷり油を絞られます。夕刻、程よい時間に親父さんが一升瓶を提げて橋本君を引き取りに参ります。 無罪放免、事はこれで一件落着です。

 

 さて、橋本君が犯人で無いとわかって、拳骨のあと駐在さんはにわかに刑事コロンボ成らぬ「名刑事・駐在」に成ります。暴走犯人逮捕に推理に推理を重ねて、目星を付けるのです。賢明な読者の皆さんは、橋本君が暴走犯人で無いとすると?  もう犯人はお分かりですか?

 

 「頭」が犯人の場合でも橋本君と同じ一連の流れで、「とりあえずの一発」から始まって最後は「一升瓶」で終わります。犯罪など聞いたことも無いような島での事件に「名刑事・駐在」の推理は今日も冴え渡ります。

 

 「頭」が橋本君に何も言わず失踪したのは一年ほどたった春先のことでした。

あれほど橋本君に火をつけて燃え上がらせたバイクは置いたまま・・何が有って、何を考えたか定かな事は分からずじまい、親も事情が分からぬ事だったので橋本君も大層落胆した事だったそうだ。

 

 

 それから半年後です、橋本君が島を出たのは。 彼はバイクに乗って320円のフェリー代を払って本土にやって来ました。まだ走り足らなかったし、「頭」が失踪してから海を隔てた本土の方を見る事が多くなって、憧れの可能性は本土にある、と思い込んだそうだ。

 

  橋本君は刺し網と底引き、それにたこ漁を生業にしておったので、船で釣りに行く場合の目安として情報が欲しかったのと、あわよくば漁礁の位置取りなど知る事ができれば、そりゃあ貴方、米の飯ですよ。

 

 

 子供にも明かさないと言われる「根」の場所を橋本君は、一子相伝で詳しく教えられたそうなのだが、詳しくは話さぬまま「失踪」したのは本土に来て三月もたたぬうちだった。

 

残されたのは彼が島から乗って出たバイクと当時同棲していた彼女だった。

 

 

 新しい夢を見たのか本土の夢が破れたからなのか、 それは分からない。

  

 

 

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瀬戸内海 孤島の後日談  近日UPします。