瀬戸内海の孤島 後日談
魚がおりましたら釣って見たいと思うのは、ひとり釣り師だけでは御座いますまい。
どちら様も思う様に手の内に入れたいと思うのは人情で御座います。ああ、中にはゆるりと鑑賞したいなどと風流な方も御座いますが、大概は食ってしまいたいと思うのが常で御座います。
はて、橋本君から首尾よく釣り場を聞きだし損ねた浪士様ですが、その後釣りのスタイルも変わって,余り興味の無い事となってまいります。
釣りのスタイルと言うのは様々有りまして、魚の種類や場所、同じ魚でも何種類も釣り方が御座います。中には出来るだけ細い糸で釣る輩など居りまして、粋がっておりますが、思い切りやせ我慢をしてまいります。 年季が入ってまいりますと、年とともに安全で近場と言う事になってまいりまして、今のスタイルで収まりの付いている事です。
さて孤島、 ご多分にもれずこちらにも今では立派な橋が架かって、岸周りには猫の子一匹・・いや魚の一匹もいやしません。橋が架かると亡者のごとく大人から子供・上手から下手糞まで寄ってたかって、あっと言う間に丸裸。 イナゴの大群が畑を丸裸にするごとくなのですが、イナゴのほうがいま少し慈悲が有るのではないかと思うくらいすざまじいのです。
橋の影響は島の道路にも、変化が有って道幅は広くおまけに信号機があちこち。
あの駐在所はかけらも無くて、今では警察署の立派な建物が有ります。おまけに強そうな白バイとパトカーまで有りますから隔世の感なのです。もちろんスーパーカブなどかけらも見当たりません。あの「名刑事・駐在」は今では治安維持に努め功有りということで、所長ぐらいには成っているに違いありません。
一度たずねた事のある橋本君の家辺りに行って見たのですが、一面太陽光パネルに覆われて以前の雑然とした面影はありませんでした。
橋本君が記憶の中に残り続けているのは、ブログでご紹介したお話が有ったからではありませんでしで、一緒に仕事をしていたのですが突然の失踪でいきおい人手が足りなくなりました。思案の上人間の代わりを機械化で諮ることとなって加工機を導入します。この加工機に橋本君の代わりですから「橋本君」と名前を付けてやりました。
「おい、橋本君にデータ送れ!」
「橋本君今日は調子悪いなあ!」
などと橋本君はいないけれど、橋本君は存在したのです。
これに戸惑うのが出入りの人でありまして、散々に戸惑ってまいります。故障した時など機械メーカーに
「橋本君が故障したので、修理おねがいします」などと言い出す始末。混乱は激しさを増してまいります。
何んとかいきさつを説明して事に当たります。
「今は昔、有る瀬戸内の孤島に・・・」から始まって
「島には名刑事・駐在と言うのがおって・・・拳骨をお見舞い・・」
「失踪した・・・」 などと懇切丁寧に機械に名前を付けたいきさつを説明いたします。
このことが有って周辺は、橋本事件の顛末を隅々まで知る事となるのです。
機械を見るたびに橋本君の風貌を思い出そうとするのだが、年月とともに輪郭がおぼろげに成ってきます。 島の昔の風景と一緒で・・・