備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

釣場では邪魔な魚が邪魔をしないと釣れない訳

 

 

  飽きもせず釣りなど続ける物ですから、世間様からはあきれ返られるところで御座いまして、一定程度の距離を置かれるところです。

 

 距離を取った堅気の衆、釣りなんぞは釣り師の領分、馬鹿な世迷いごとなどとっとと任せて包丁など研いでおります。世間様がそれでは、釣りより面白い事をなさっておるかと申しますと、横並びの事など嗜まれる事で、どうにも面白そうには思えません。

 

これが食べる段になりますと、人並みに講釈の一つも付けて釣り師よりも達者に召し上がるのですから、世の中理不尽でいびつに出来ておるので御座います。

 

 

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 さてお客さん、本日はお日柄も天気も良いところで、釣りに御出でいただきまして感謝に絶えぬところで御座います。

はい、早速魚が釣れましたですね、その魚それは外道の餌取ということになって逃がすので御座います。

決して要らぬからといって日干しにしたり無益な殺生はご勘弁願います。

 

 

 その外道と呼ばれる上品で無い呼び方をされる魚、それがいなくっちゃあ目あての気の効いた魚も釣れないんで御座います。

まず撒き餌に小魚の餌取がやってまいりまして、その食べる音を聴きつけた中型が気配を察したところで近寄って参ります。大型はその外側に位置するところで、いざ勝負と相成ります。

また、餌取の釣れる位置で目あての魚の位置を目算して参るのですから、一匹たりとも用向きを成さない魚などいないことです。

 

 ですから、ひとつの魚種でもいなくなると言う事は釣りを組み立てる上で、探知機が一つなくなるようなもので大変不都合と成るのです。

釣りと申しますものは餌取や本命の魚を含めて海中を憶測して成立するのですから、全てが大事と言う事で御座います。

 

 

 あまりに気の毒で、どう声がけをしたら良いのか戸惑う事と言うのは御座いますもので、OOさんの絶叫にも手出しは出来ぬ事でした。

 

 大橋さんは孫の守役と釣り師の顔を持つところで、小学生低学年であろう孫を連れて釣り場に現れてまいります。二人して和やかにああだこうだと、ほほえましいところでありました。

大橋さんは古株釣り師で、ニコニコ笑顔が絶えません。怒ったところを見たことが無い穏やかな人で、昨年であったか大手の製鉄所を定年退職し毎日日曜日の身分、企業戦士から仕事がなくなった分、釣りに執着するところです。

 

 おだやかな大橋さんと孫は機嫌よく釣りをするところ、めぼしいものも釣れて合間に姫オコゼがかなりの量釣れております。

 

「この魚は刺すと痛いからタオルをかぶせよう、触ったらいけません」と孫に言いまして釣り上げた姫オコゼを一まとめ、タオルをかぶせて参ります。目あての魚以上に姫オコゼの猛攻で、逃がして又邪魔をされたらと言う事らしく、丁重にタオルの下に隔離して参ります。

 

 OOさんも穏やかな人で無類の話好き、釣れぬ時間帯など一回り釣り仲間の元を巡りまして、穏やかな話をするところです。奥さんが小さな大衆食堂を切り盛り、OOさんは郵便配達の仕事の合間、趣味と食材調達の係りとなって釣り場に現れます。

余分の魚などみなOOさんに差し上げるのですが、気持ちよく受け取ってくれるので、双方それは気持ちの良いところと成って参ります。

 

 「どうです、釣れます? 孫君もよう辛抱するなあ」

 

 穏やかな大橋さんに穏やかなOOさんが話しかけたのが悪かった。やおら腰を落ち着けて話そうと、これ幸いとタオルに腰掛けたのがいけません。これ幸いどころかこれ不幸と言う事になりまして、皆 息を飲んでまいります。

 

 姫オコゼと言うのは死んでも棘には毒が有って、刺されたら一日はずきずきと痛みが続きます。

 

 「ぐーーーーー」今まで聞き及んだ事の無い、この世のものとは思われぬ声を上げたOOさん、じっと固まって痛みをこらえますが、すぐ勘弁してもらえるほど甘いものではありません。

 

椅子にも座れず立ったまま食材調達係は漁業を続けるのですが、どうにも痛い。

 

見兼ねたある者が「傷には海水がえぇゆうが、けつを海水に浸けたら」と助け舟を出します。これとて確かな確証が有るわけでもなく、単なる思いつきなのですが、この事態、藁にもすがりたいのは世の常と成っておりまして。OOさん手洗い洗面器に海水を汲み、やおらズボンを下ろす事になっております。

 

 360度見晴らしの良い海上に、裸の尻を洗面器に浸けてしゃがみこむと言う事は、現場の人間にとってこれ程辛い事もありません。

大橋さんは罪にさいなまれ、OOさんは痛みに打ち震え、他の釣り師は笑いをこらえるのにこれは辛い。

 

 結局効果などある訳はありません。痛みが引くまで我慢するしか無い事で、唯一特効薬と言えば、「近ずか無い、刺されない、逃げる」しか無いのですから。

 

 OOさんは帰りの船でも立ったままであった。クーラーは皆から貰った魚で一杯であった。

 

今心配しているのは、翌日郵便配達に乗るバイクの振動に絶えられるかと言う事と、孫がオコゼに刺される事があったら、見て覚える子供の事だ。海水に漬けるだろうなということだ。

 

  誰だ! 今笑った奴・・一寸来い  当事者はだれもいない一緒に笑おう。

 

 

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