備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

津軽三味線 高橋竹山さんと 釣り師  その4 釣り

  

 

 長々このお話の続くところで最終回と成って参るのです。

竹山さんは演奏される時意外は少なくとも我々には普通のいいお爺ちゃんだった。

関係者も数度お会いしたり送迎するうちに打ち解けて、相変わらず青森の方言は理解不能だったが、分からないなりに会話が成立していたのは不思議な事だった。

 

最後の公演の頃は「爺ちゃん」と呼ぶのが大半で「竹山さん」と言うのはわずかだったように思う。

「爺ちゃんチョコレート食べる?」と聞くのが有って、返事を待たずして「もうえっとないわ、弟子に買をてもらい」などと子供じみた振る舞いをする奴まで出る始末、これは幾らなんでも年寄りがかわいそうだ。

 

f:id:akouroushix:20161013062019j:plain

 

 幾度目の時であったか、公演が終了して翌日駅のホームに見送りに参ります。

電車に乗り込んで帰られる、主催者はここで腑抜けに成ります。一切のわずらわしさから無罪放免、開放されるからです。

 

 そんな見送りの時であった、20人ばかりでホームにたむろいたします。

竹山さんはニコニコ機嫌の良いところ、ある奴がよほど興味があったところだろう、「爺ちゃん手を触らせてくれる」と頼んでまいります。

 

「おい!餅じゃ・・餅じゃ」と言います。少しばかり声高なところで見送りの衆集まってまいりまして手を触ってまいります。

大勢が手を出すものですから、肩をもんだり他のところを触って参ります。

かわいそうに嬉しそうに、竹山さん身体をよじっております。

若い女の子の手は分かるのかほんのり赤らんでおりますから隅には置けないのです。

 

 触った手は餅のように柔らかく、たこなど無かったように思う。それにしても人間国宝かといわれている人の身体をよって崇って触りまくる、このようなことは許されるのか判断は未だ先送りにしている。

 

 

 

 さて駆け出しの釣り師のことだ、最後になった公演が終わって「爺ちゃん今度こっちに来る時は何日か余分に泊まりんさい、釣りに連れてったげる」さあこう切り出したところだ。

 

 

 名人上手とも成れば、馴れるのも早いだろうし勘所だって抑えるのは早いに違いない、竿は使えまいから手筋の程たんと見させてもらおうとの謀だった。感性の鋭い人はどうやって習熟するのか見てみたいのだ。

通訳を介して確かに今度はゆっくり来ると言われた。

 

竹山さんと合ったのはこれが最後と成った、こちらも次の公演は企画がまだだったし竹山さんも高齢だった。訃報は数年後に様々なメディアから聞いた。

 

 

 

 素人の手仕事で御座います、しこたまほころびの出るところで、資産家の独身婆さんが付きまとった話、偽者の竹山さんの弟子と校長先生の奥さんの顛末、公演会場の乱入者の始末、お弟子さんの竹童さんや竹与さんとのこと、会館と宿泊したホテルとの出入りなどなどまだ事件は山ほど有った。

逸話はまだ有ったが本筋の話ではない、枝葉のような事に思えて除外した。

 

竹山さんには色々な事は教わって色々考えさせられたが釣りだけは約束が果たせていない、もしもが有るならどんな釣りをされるのかやはり見てみたい、今は想像するしかないところだ。

 

 「爺ちゃん」から教えられたのは餅のような手だ。

辛らつな事をされても、芸と腕で餅のように柔らかく包み込む度量これを教わった。

 

 ある日の釣場で御座います。一人の釣り師が何やら怪しい雰囲気で釣りをしております。注視するにどうやら目を瞑って釣りをしております。これが場にそぐわぬ怪しさをかもし出している原因だ。

結局思うような釣果が得られなかったようで、それからその釣り師が目を瞑って釣りをしているのを見た者はいない。

 

 

 

この記事は、自分にとって大きな出来事だったし、今の自分を形作る大きな軸になっている竹山さんとの出会いを記録しておきたかった。 

 記事を書くにあたって、YOUCHUBEの動画をアップしようとしたが、そこは駆け出しで、かなわなかった。

この記事をお読みで興味のある方は是非そちらを覗いていただければ嬉しい事この上ない。

 

 

akouroushix.hatenablog.jp