備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

「御船の織」さんは今二つのことで悩んでいる

 

  「御船の織」さんといやあ、昔はその界隈では知らぬ者などいない、ちったあ知られた遊び人で、お城からすこしばかり離れた所にあった結構な屋敷が人出に渡るくらいは遊んだ人だ。

 

 「御船の織」の御船は、在所が御船町だから 織は苗字の一文字から由来している。

 

 

 

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 遊び人といってもその筋の構成員などではなく、根っからの放蕩が生まれつき装備されていて、家業の建築業には目もくれずオートバイに凝りあげる、賭け事が続いて車に繋がる、ひとしきりランチュウに熱を上げる。それから御婦人に至ったところで無残にも大邸宅は鍵を渡すはめに。

 

 

 普通の趣味人の域は片足も両の足もはみ出す遊び様ですから、賄は膨大なものになって

「なに、家が形を変えただけのことよ・・・」

 

と、まあこうだ。

 

 

 織さんと顔なじみになったのは釣り場の事で、何度か顔を合わすうちに釣りのあれこれを話すこととなったからだ。

 

 その頃の織さんはささやかながら家業を継いで、少しばかりは放蕩も収まったところで退屈する。

何かないかとあたりを見渡すと、呆け者の社会の吹き溜まりが目についた。

 

 

 悪魔の趣味と申します。際限なく広がる闇に竹槍を突こうと、目出度く釣り師の仲間になって人生最後の放蕩を始めたのでございます。

 

 

 目下の悩み その一は魚が思うように釣れないことだ。

季節がまだ早い、そのうちにいやでも釣れだすよとは言うのだが、早や様々カタログをのぞき込んでいるのですから世話はないのです。

 

 

 もうかなりの道具を買い込んで、こんなものはどこでどう使うと思しきものまで品ぞろえは華やかだ。

 

道具から入るやつだな・・。次の身代が心配になってくる。

 

  

  立派だが少しちぐはぐな道具立てにかこまれた織さんの周りには、かっての遊び仲間というか、戦友がいつの間にかもぶれついて、釣りを始めだす。ああだこうだとやり始めたんだが素人の生兵法、あれこれ手を出すのは結構だがどうも回り道のような気がしてならないのだが。

 

 

 彼は何でも試してみるのがいいところなので、今のうちに思い切り痛い目をしてもらったら、早番よく釣れるようになるだろう。                    今はどうだ? 痛いだろう? 痛いか?

 

 

 二つ目の悩みは、織さんも結構な寄る年波になったので、珍しくもなんともない跡継ぎ問題が生じてまいりまして、かなり細くなった家業を継いでほしいという人並みの願いなのです。

 

 

 「まだ一人もんじゃが、嫁の一人二人算段して落ち着かしたいんじゃがの」

 「スカイラインは新車を買うとるんで」

 「ヤクザな商売から足を洗うてまともになってくれりゃあの」

 

 「年はいかほどで、生業はなんじゃい?」

 

 

 「年は35でもう嫁の一人二人おってもええんじゃが・・・」

 

嫁は複数は無理だと思うのだが・・・・

職業はなかなか明かさなかったのだが、回りくどくはめ込んで往生際の悪い口を割らせたところによると

 

 「パチプロ・・・安定せんし・・世間体もあるし・・嫁の一人二人算段・・」

 「なかなか難しいじゃろうのう」

 「何とかゆう集団のパチプロで、指図をする立場なんじゃが・・」

 

 また珍しい職業に就いたものですが、自分のことはさておいて息子は世間体の枠に収めたいらしい。

どの職業でも成り立つということは難しいことで、スカイラインの新車ですから、これはかなり侮れない。

 

 織さんは釣りに夢中で餌を海中に投げ入れて入るのだが、今日もあまり芳しくはない。

自分の都合ばかりで魚の気分を推し量ればと思うのだが、気が付くまでもう少しの時間と、辛抱が入用だ。

 

 二つの悩みを一時は忘れさせてくれるのが釣りに没頭することではあるのだが・・・

 

 

 

 

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