ゲンかつぎの釣り師
浪士様とて人の子、そう自信たっぷりには生きられません。 そうです弱いとこなど粋がって、人には見せぬように取り繕っては居りますが、やはりぼろは出ます。
日頃が日頃ですから追い討ちのきついのなんの、それは当然でしょう。
おいあぶない 落ちるぞ
釣れぬ時の神頼み、当然秘密裏に行っておりますよ。だれにもさとられぬようにね。この神頼み、最上級の技なのですが、それ以前にゲンを担ぐという前段階の技もあります。
私などはセブンイレブンの幕の内弁当、それも鮭の切り身ではなくさばの切り身の入ったやつがゲン担ぎの技となっておりまして、それは釣れるんです。
釣り場に集う釣り師がなにやら不可解な言動をしています。はいこれがゲン担ぎの技を繰り出しているところです。皆さん見てやってください。あの間の抜けた振舞いを。なんと滑稽な。とても日常でそれをやると変な目で見られて,微妙な距離をとられてしまいます。
色々有ります中で、何も考えない単純なやつ。
朝 用を足しまして良く拭かない。そう「うんを付ける」と言うやつでして駄洒落でゲンを担いでまいります。びろうな話でとてもお食事中の方にはご遠慮願わねばならない話です。
ええ ええ 釣れませんよ、こんなばかげたことで釣れるんでしたら誰も苦労はしませんし、釣り場は今頃美しいにおいで充満することになります。
次にしげしげと眺め入ったやつ。
これは車の助手席から這い出ると言うやつでしたな。運転席側からすっと出ればよいものを、なんでも車を寄せられて助手席側からしか出れなくなったときに、良く釣れたのが新手の技になったとか。ご念の入ったことに、右手でレバーを引かねばいけないんだそうで、馬鹿馬鹿しいことにもいちいち理屈がご座います。
ええ 釣れるわけがありません。こんなことは生まれたばかりの赤ん坊でもご存知です。
最後はそう来たかというやつです。
その人は船から筏に移るとき、船の右舷側から降りると釣れるというやつでして、これもこだわってまいります。ある時作業船があって船が反対側に回り込んで着いてまいります。 さあ困った、右舷側は海です。この人はこの降り方を公言しておりましたから、他の釣り師にとっては格好の獲物です。
「おい もう帰れ」
「船の中で5・6回廻ってみな、右から降りたことんなるぞ」
これなどはいいほうで
「おい 飛び込め、右から飛び込んで這い上がれ」
「船頭に袖の下渡して向きを変えてもらえ、高いらしいけどな」
船頭は苦虫を噛み潰しております。
さて考えあぐんでいたこの釣り師、やおら 後ろ向き に降りて来ました。これは考えたものです。
自分のゲンなどは決して他人に公言してはならないと深く決心したことです。
無くて七癖、どなたさんもそれぞれ有ります様で、釣り場の周辺、哀しくも怪しい振る舞いで充満しております。誰でも苦労なく、あわよくば楽をして成果を勝ち取りたいものですが、それは努力、精進の向きが程よく空回りしていることです。