備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

ちゃっちゃ ちゃっちゃ 小母さん

 ちゃっちゃ とは苗字でも名前でもありません。こんな変な名前や苗字があったら、それはご先祖様は余程、変な人でしょうし、現代では木曜日の生ゴミの日に出されてしまうことです。

 

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   昔のガソリンスタンドにあった給油機  福山自動車時計博物館 所蔵

 

 

 釣り師は魚を釣ります、当然です。釣りは釣りでも陸釣りとなりますと、これは命を狙われることと成りますので、よほど覚悟をするか、完全犯罪をたくらむしか御座いません。しおらしく真面目に魚を釣ってまいります。

 

 

 釣った魚が多い場合、わが家で全部始末が出来ればよいのですが、よそ様にお手伝いを願うという事態も生じてまいります。そんな魚を差し上げる方に ちゃっちゃ小母さんがいらっししゃいます。

 

 小母さんは島の人でご主人は勤め人、一人息子は高校で野球部だ。

「今年のドラフト、声が掛かったかね?」と言うと「どの球団も全部断った」ときっぱり言い切ります。キャッチャーしか出来ぬ体型の上、3年間補欠で、本人はマネージャー役が痛く気に入った、どうやら彼にとって野球は世話役のことらしい。

 

 朝早く、釣り師が出船を待つ時間に、世の中では野球とは言わない世話役を3年間片道20キロ、車で送迎だ。 地方では間断なく交通の便など有りはしない、寮に入ればいいものを、なぜか個人交通機関で3年間のご苦労だ。朝、言葉を交わすようになって知り合った。

 

 小母さんは、釣りをする。他の人と少しばかり趣が違うその釣りは、他の人が日中釣って、撒き餌がたっぷり入ったその場所で、人様が帰ったあとに釣るというものだ。小母さんの釣りは波止場の釣りで、家族連れだの、初心者だのほぼ入門編の方が多い。釣り荒れしたその場所ではなかなかに釣果を望むのは難しい。いきおい余った餌など投げこむので、寄せ餌にはもってこいだ。

 

 小母さんはちゃっちゃちゃっちゃと両の手を振り回しながら礼を言う。たこが余分に釣れたので差し上げた所、少々大きな声で、両の手が踊る。波止でたこを捕まえたことは無かったらしく、それは喜ぶことだ。

 

 何度かそのようなことがあって其の都度、両の手を振り回された。一般常識から言って南京玉簾のごとく振り回される両の手は違和感いっぱいなのだ。体前方180度、上下およそ5~60センチこの範囲で暴れるのだ。言い募ると近寄ってくるから危なっかしい事この上ない。

 

「おばさん一寸声が大きいし、身振り手振りも大げさすぎやせんかい」

 

「ははは 声の大きいのは小さい頃から右の耳が難聴でな、それでじゃ。ははは

両手がはげしいのは、うまく自分のことが伝わっとるか不安でそれで大きゅうになったんじゃろう  ははは 」

 

成程 世間からすれば一寸ずれた動作も合理的な理由があったのか。

 

 小母さんとは釣り場が違うので、一緒に釣ったことは無いが、波止ではあのように両の腕を振り回すのであろうか。

 

   よもや その様な事は無いと思うのだが・・・・