食堂のおばちゃんと「おこぜ」
釣り場には危険がいっぱい御座いまして、中でも魚自体が人様に危害を加える向こうっ気の強い魚などがおりまして、日々人間様を痛めつけております。
とは申しましても、魚にとっては平穏無事な生活に人間様が勝手にかき回しに参りますから、やむにやまれず、最後の武器を繰り出してまいる次第です。どちらが悪者なのかは定かではありません。
魚が攻撃する武器といいますと、体自体に毒があるフグの様なものから、噛み付くもの、毒針で刺すもの、なかには電気で痺れさすもの(さすがに此れはこの辺にはいない)様々で御座います。
まあ武器といっても、新手の新兵器を編み出して攻撃するということはありませんから、扱いさえ間違わなければ平和は保たれて参ります。
いが栗を踏み潰して墨を塗り、ひらひらを付けた此れでもかと言うくらい不細工な魚を「おこぜ」と言います。種類が色々ありまして姫オコゼなどと言う可愛いものから、本オコゼのようないかにも悪の本家、毒の効きそうなものまで居ります。
飛島の漁師の典さん、浪士の岩下様、このご両人これが「本おこぜ」の餌食になった。典さんは網に掛かったのを取り払う時、ゴム手袋だから大丈夫だろうと隙を見せたのが悪かった。
岩下様は素手でやり過ごそうと隙を見せたのが悪かった。
決して悪い人ではありません、ただオコゼの事を言えた顔つきではないのが二人だ。
鬼瓦をたわしで擦ったような顔は怖う御座います。初対面の人がすれ違う時、おのずと距離を取るのは決して間違った行為ではありません。
鬼瓦の二人は半月ばかり涙を流したのでした。この二人、痛みから解放されるならたとえ億万の借金を抱えてでも開放されたいと言ったのだが、今そんな事を聞いたら張り飛ばされるのは目に見えている。
浪士様「おばちゃん大層美しい魚が釣れたんで持ってきたぞ・・・・」
浪士様「おばちゃんそっくりの美人だぁ・・・」
おば 「あら有難う、いつもすまないねえ」
本オコゼが釣れたのです。浪士様の針に。こんな物騒なものは手を出さないに限ります。たとえ世間様のとうり相場で、うまいものだと分かっていてもだ。痛い目は他人様に請け負っていただこう。
そうだ渡船場の食堂のおばちゃんだ、魚の扱いには慣れとるしな、それに先行きはあまり長くなさそうだし、若い人を痛めるよりこっちだな。
おば 「あんたちょっと! そっくりだと私が! あぁ~・・」
浪士様「いや悪い悪い・・処置に困って手馴れたおばちゃんにやろうと・・」
おば 「処置したるからもってお帰り・・美味しいのに・・」
やはり親切なのだ、やはりこの人しか差し上げるお方はいない。
浪士様「いえ差し上げます。美味しい食べ方を教えます。手で握ってパンツの中に
入れてかき回して調理するとこれが絶品だ・・どう、やってみる?」
おば 「あんたばかだねえ、オンナがするもんじゃあないよ、男がするもんだよ
あんたパンツの中に入れてみな、奥さん喜ぶよ・・ひひひ・」
お舅さんから教わったと言う料理の味付けは、島では評判がいい。
「私流を付け加えんと、今の人にはねえ」と言うおばちゃんは調理の事などを今でも工夫するそうだ。なかなかに一筋縄ではいかぬおばちゃんだ
。
今度本オコゼが釣れたら誰にやるか、順番を決めておかねばならない事だ。