釣り師と立ち姿
なんに付け、振る舞いと姿勢は大事なもので御座いまして、釣りなどもこれが大事になってまいります。
姿がよければおよそ技量のことなどは推し量れるもので御座います。どの競技にしろ、技能が要求される職人世界においても、初見でほとんど丸裸、隠し様はありません。
変則スタイルをとる方も御座いますが、基本は重心の位置が揺らがず、あごが引かれて脇が閉まっているもので御座います。
渡船で釣り客などが参りましても、船中の振る舞いで、素人か手のある人は分かってきます。浮ついているか、重心がしっかりしているかで判断されるのですが、見立てはそう狂ってくるものではありません。
釣り姿立ち姿の綺麗な人はやはり年季の入った上手の人が多いものでございまして、全体には力が入っておりません。
映画「たそがれ清兵衛」に釣りの場面が御座いまして、主演の真田宏之さんが釣っております。これが実に見事な立ち姿と竿の捌きでございまして、思わず「これは・・」と思ったもので御座います。せりふのやり取りも理にかなったやり取りで、これは良く練られたシナリオでした。
刀の捌きはよほど修練されているのだと思いますが、隙を見せない竿の捌きにそれが出ておりまして、さすが名を成す役者さんはその道の者を納得させて参ります。
これに比べていけませんのが「釣り馬鹿日誌」の浜ちゃんとスーさんです。どちらも他の演技は群を抜くのですが、釣りのシーンはいただけません。重心はぐらつき
あたふたと・・喜劇だからと言えばそれまでなのですが、やはり目に付いていけません。
熟練と申しますと、一般人が驚くような事を、何食わぬ顔で出来なければなりません。 およそ隙のない一連の動作をよどみなくこなせる、見ていて惚れ惚れするもので御座います。
さる時、銀行に参りますと、女子行員さんがお札を数えていらっしゃる、見とれましたなあ・・・実に鮮やかに数え上げるものです。又有る時は左手で伝票を繰りながら右手では電卓を見ないで、恐ろしいとても人間業ではないスピードで打ち込み・・
じっと見ておりましたら、なにやら気まずい雰囲気に・・それでなくともこっちはかなり怪しい雰囲気だ。
先日感心したのは、うなぎを捌く職人さんだ。あのつかみにくいうなぎを、いともたやすく掴んで、あれよの間に丸裸。あれでは捌かれるうなぎに、考える余裕はありません。
いずれにしましても手練の技と言いますものは「芸」に通ずるものがありまして、見るものをあきさせません、その上出来上がるものは上等と来ていますから、少々見物料をとっても、文句の出所がないことになってまいります。
さる塗装屋の社長さん
「腕のないへたくそ程汚れとる!」