備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

瀬戸内海 孤島の二人だけの暴走族と釣り師 その1

  

 

 

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  暴走族と申しますものは今に始まったものではありませんで、昔は「カミナリ族」と申しまして、大層世間様からいぶかしい顔をされた、由緒正しい歴史のあるもので御座います。

 この族 、大概は何の世間にアピールする手段を持ち合わせない若い人が多いもので御座いまして、それでもこっちを振り向かせようとがんばって暴走してまいります。

 

 暴走族といいますものは外見、見た目がとりあえず勇ましく見えねば成りません。弱弱しいのは論外なのです。 ですからカミナリ族は爆音も高らかに真っ直ぐ猪のごとく突っ走ったものです。時代が変わって暴走族となりますとぐるぐる廻り始めます。音は「パカランパカラン」とけたたましく変わって、旗ざおのようなものまで標準装備されてまいります。何やら徒党を組んでまいりまして集団化します。

 

 まあ昔はそうだったのですが、今の暴走族といいますとかなり人間が出来てまいりまして、信号が赤の時はちゃんと交通規則を守って止まります。そして 青に成るや否や爆音とともに「左右確認」のうえ飛び出します。

返す返す時代の変化を感じさせるもので御座います。

 

 

 さて、場所は瀬戸内海の孤島。ここに橋本君と言う当時、青年がおりました。知り合った時には陸に来ておったのですが、こちらは釣りを覚え初めの頃、島のことが知りたくてたまりません、それは根掘り葉掘り聞きただした事です。当時からそうなのですが、孤島というのはほとんど手付かずの楽園、これが橋の一本でも掛かろうものなら、ハイエナと化した釣り人が押し寄せて、瞬く間に不毛の地と成って参ります。容赦などと言う言葉は陸に置き忘れておるのです。

 

 孤島の話を粗方聞きだした頃、橋本青年があまりいい顔をしません。それはどうやら陸にあこがれて出てきたのに、いまさら島の話など、邪魔くさいだけだったらしいのです。それからの話ですが、こちらの都合だけでなく橋本君の話しを聞くようになったのは。

 

 

 橋本青年は、当時、島の退屈な日々に悶々としておったのですが、そんなある日それはそれは甘美な妙なる音が聞こえてまいります。それは一人の若い衆が本土から320円のフェリー代を払って島に持ち込んだ一台のバイクから聞こえてくるのでした。

 「クラクションの音で曲をひくんよ! 一発で憧れた」

 

孤島に二人の暴走族が誕生したのは日をおかず瞬く間の事でした。連日 昼夜を分かたず思う存分孤島を走り回ります。橋本君にとってバイクのクラクション音はまさに文明開化の音と成ったのです。そして複数ですので立派な「族」と成ったのです。

 

 

 

 静かで平和な孤島が俄かにクラクションの音で騒がしくなります。

 

 

 何十年に一回有るか無いかの事件に、島の駐在さんが思い腰を上げてまいります。それは「いやいや」です。何しろ島に赴任した時の歓迎会で胴上げされて海中へ、したたかに海水を飲まされたからです。島では事件など適当に折り合いをつけ「有って」も「無い」でないと海水を呑まされるのはいやだからです。

 

 駐在さんが腰を上げてから島は騒がしくなってまいります。島中くまなく、それも終日、2台の暴走車と駐在さんのスーパーカブが走り回ります。 多勢に無勢、たまったものではありません。何しろ敵は排気量が大きい上に二人だ。一方を追いかけると他方で「パカランパカラン」、陽動作戦に振り回されます。

 

 この戦はどちらかが燃料切れに成るまで続きます。 暴走青年が燃料切れに成ると、舌なめずりした駐在さんに捕まって「まずは何をさておいても一発」ぶん殴られます。駐在さんの燃料切れは島の人の「兄ちゃん一人捕まえられんのか・・・の冷たい目線」、スーパーカブを押しながらその目線に耐えなければ成りません。身体は一日走り回って疲労困ぱい、これでもこちらは一応仕事、給料を貰っている立派な大人の仕事ですから、かなり生産性の無い仕事だったことです。

 

 

そうですどちらも燃料切れが勝敗を分けたのです。

 

 国家権力の沽券に関わる駐在さんの悩みのほうが深刻であったのは言うまでもありません。「族」は面白半分、何んの屈託も無く新しい遊びに夢中です。生きる意義を見出した青年に壁はありません。

 

 一方、壁にぶち当たったのは駐在さん・・・捜査の手法を見直します。

 

 「これだー!」

と叫んでおもわず、ほくそ笑みます。

 

 

  長くなりました、 続きは  又明日!