備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

屯田兵の釣り師  とかく釣り場は足の引っ張り合い!

 

 

 浪士様は釣りに向かわれるのに、「作務衣」を着用され始めました。

一つはメーカーさんのロゴマークがでかでかと我が物顔で占領しているウエアはどうにも恥ずかしいし、メーカーからは宣伝広告費の一円も貰っていないので、金を払ってまでメーカーの宣伝する義理はかけらも無いからです。動きやすくてすごしやすい服装に限るのですから行き着いた先がこのようなことに相成った次第です。

 

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 「おいお前さん!そりゃあまるで屯田兵じゃあないか・・」

口さがない連中は早速にけん制を入れてまいります。

 「そういうお前さん、今日は町内のドブさらいの日か?」

他愛も無い冗談を飛ばしあいながらも敵の目は好奇の強い目線で充満しております。

 

 

 和風で本格的なものは釣り場では敬遠されるもので、まず着る勇気が無い。

本格的な格好をして、釣れなかったら恥の上塗り、ここは無難に普通の格好を、と成るのが常で御座います。

  素人衆から見ますと、本格過ぎて近寄りがたい、どうみても年季の入った、性格の気難しい爺いにしか見えませんから、自分では着るつもりも無いし、できることならそんな奴には距離をとっておこうと言うのは人情なのでございます。

 

 他人様はそうで、では着るほうはといいますと、これも最初は覚悟が入る事で他人様にどう映るか気になったことです。古人はあまねく和装であったににもかかわらずです。 普段の生活でも浴衣あたりを除いて、和装と言うのは「覚悟」を感じるもので、対するほうがささやかな緊張を感じるもので御座います。

 

 朝一番の渡船場にいつもと違う異質な空気が流れます。

 この おっ!と 思わせる空気は二人の釣り師によってもたらされております。

一人は中年の新顔釣り師、出で立ちは上から下まで、あるメーカーのロゴマークだらけ

しかも道具一式かなり新しく手入れも行き届いております。車にもメーカーのロゴマークが貼り巡らされており、一分の隙も無い荒武者のしつらえと成っております。

姿形を見て欲しいのだが、さもそれには感心はないよの空気を漂わせて、黙って威圧しております。

 

 もう一人の釣り師、これは浪士様と同じ「作務衣」。それも新品で糊も利いております。道具立てはかなり渋いもので統一されており、こちらもこの釣場は初めてらしくだまってあたりを見渡しております。

この方は一寸着こなしが、襟元を絞めて胸元を隠して御出でですから、他人が声をかけるのは憚られることなのです。

同じ出で立ちの浪士様といえば、洗いざらしの綿作務衣、少々皺など目立ちましてよれよれ、隙などが少々漂って降ります。その上、太ももあたりの生地が一部かぎ裂きの穴あきと成っておりまして、隙などと言うより八方破れに近い落ち武者に近い出で立ちに御座います。もちろん胸元は少々はだけておりますから、着こなしとは程遠いものに御座います。

 

 このような和装の武者、ロゴマークの武者といいますものは、いずれ名の有る釣り師か、メーカーのテスターあたりか、それとも表面だけを飾る花電車野朗かに相場は決まっています。

 

 この異型の二人に気持ちをかき回された、屯田兵ならびに、町内どぶ掃除の一行はがぜん、一糸乱れぬ行動に走ります。

あの歌舞伎野朗どもをへこます!これを合言葉に位置取りから撒き餌の調合、日頃使わぬ集魚剤、これらを駆使して強烈な自分たちだけが都合のいい撒き餌の帯を作り出してまいります。この連帯感はいずれより参るのか深くは存知ませんがそれは糸の乱れぬ事でした。

 

 花電車といいますのは華やかな分、装飾を取り払って日常の姿に立ち戻った時には、寂しさが一段と増すものです。

 

 

 

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