釣りにおける水槽実験はいかに行われたか
浪士様にとってこれくらいの学術的な研究は当たり前なのだ。
「釣りにおける流体力学と動物の行動様式の相関関係について」
どうだ立派なもんだろう、これくらいのことは朝飯前の用足しぐらいなもので、釣りに繋がるならどの様なことも研究なさいます。まあ文字面は大層なことでありますが、どの様なことであるか掻い摘んで説明いたしましょう。
福山ホース倶楽部にて いろんな趣味はある
釣りにおける流体力学とは流れの中で釣りの仕掛けがどういう風な変化をするかということです。仕掛けの位置取りとでも申しましょうか、実際の釣りでは、魚の目から見て、餌にラインや錘が隠れて見えないようにするのが常識ですから、ここを外して釣りは組み立てられないのです。
次に動物の行動様式とは、水中で針に付けられた餌の活きえびはどういう動きをするかということです。 餌の動きを知ることは、ラインの太さや錘の設定に影響が出ますのでこれを知ることも重要なことになります。人間様でも活きのいいものを食べたいのは魚も一緒ですから、知ると知らないでは雲泥の差です。餌の管理と、動かし方でそれは大層な差になります。
その次に仕掛けと餌をセットして、具体的に餌がどの様な動きをするかです。元気でいて頂かないと、魚をだまし討ちなど出来ません。
と言います所で浪士様は敢然と実験に立ち向かわれます。
まずこの実験は真夏、家族が寝静まった頃風呂場の浴槽にて執り行われました。
浴槽に水を張り、手で水をかき回し水流を作ります。
おお、このように成るのか、成程! 仕掛けは水流に押されてゆらゆらと動いてまいります。予想どうりの成り行きで浪士様もご機嫌です。
次に仕掛けに餌の活きエビをつけた実験です。
すいすいエビは元気良く泳いでまいります。水流を作ると先ほどとは違う動きです。
浪士様の満足そうな顔。ほぼ予想どうりの動きです。
水中にあるエビはたまったもんでは有りません。尻を針で貫かれ、寝込を襲われ引っ張りまわされた挙句しゃくられるのですから、これは逃げるが勝です。
疲れ果てたエビがつかまる物は無いかと探すと、有るではないか。
浪士様の黒い藻場が・・これだ此れにつかまろう・・
浪士様といえば「ふふ・・このように近場の物にしがみつくか・・ふむふむ・底ではこう動くか」とすっかり夢中です。
エビといえばもっとしっかりした物につかまらないと、これ以上引っ張りまわされては敵わんと思っています。 周りを見渡すと藻場よりしっかりした漁礁 (海底にある突起物、人工の物もあり魚が寄りやすい) 少々ささやかではあるが、藻場よりはましだ。思い切り飛びついてまいります。
此れに慌てた浪士様、引き剥がそうと引っ張ってまいります。
いかん! 根掛りだ! 漁礁に引掛かってしまった。 「痛て・・・!」
漁礁は心なしか縮んだような・・・
こんな実験のことなど誰にも知られるわけには参りません。水槽の実験を話す時、「君ねえ、こうやってさあ、こうするんだ」気取って手ほどきをなさいます。
あの草木も眠る丑三つ時の水槽実験の真相など誰が語るものですか。