釣り師がしこたま付け込まれた結果 台所が・・・
「岩ちゃん」という釣り師仲間がおりまして、色々と世上を騒がして参るので御座いま
す。
「岩ちゃん」と言います男、かっては鳶工事の業界ではどうしようもない乱暴者で相場が定まるところでありました。人相も駐在所の手配写真よりも一寸だけ怖く誂えてある所で、乱暴もなんとなく違和感なく受け入れられる空気が漂っております。
顔見知りの同業などはるか向こうに顔など見定めた日には、狼藉など働かれる恐れが有るので必ず脇道に逸れる、仕事の入り合いは極力避ける、できるだけ関わらない。これが我が身を守る業界の常識と成っておりまして、危うい住み分けの上に業界が存在する事でした。
ただ道理なく狼藉を働くわけではございませんで、そこはそれ到って単純な訳・道理を抱える事でした。 理由なくの狼藉などただの無法者のすることで、乱暴とは異なって参ります。
岩ちゃん、どうにも自分の流儀で無いと納まらない、他人様のやり口では我慢が成らず、手取り足取り教えれば世界平和なんぞは簡単に訪れるものを、生来の短気が災いするところで、口より先に手が出てしまう。もちろん自分の中にはしっかり試行錯誤を繰り返しておりまして、彼なりの裏付けはあるところですが、いかんせん口より先に手がものを言う。
この乱暴者が釣りを大層好むところで、これも散々試行錯誤を繰り返して参ります。流石に趣味道楽の世界ですから、釣場で乱暴を働くと言う事はありませんが、人の換言など聞く耳はまず持ちません。あくまで実践検証で自分が納得する以外隙間を見せぬ事です。
乱暴者の釣りを眺めます。そこには乱暴者とはかけ離れた、実に精緻で細やか。繊細かつ大胆な釣りが展開されておりまして、世情の風評とはかなりかけ離れております。
いけません。前置きが長くなりました。今日はこの乱暴者が「雀」に付け込まれた話でした。
岩ちゃん曰く、面白半分に庭に来る雀に飯粒や鳥の餌を与えておったところ、食事時に成ると、早く寄越せとばかり集団で騒ぎ立てるようになったそうなのです。
更に庭で餌をついばんでおったものが、段々にベランダの手摺辺りまで臆面も無く押し寄せる事態と成ったそうだ。このあたりに成ると情の一つや二つ湧くようになって
「お!今日は餌をやっとらん・・」など、つい雀の面倒を見るのが生活の一部に成った、と乱暴者は言うのだ。
話しはここからで、ある日乱暴者が、日中寝ております。すると台所あたりでばちゃばちゃと音がする。不審に思って音のするほうにいくと、台所のいつも少しばかり空けている隙間から雀が入り込んで、茶碗を浸してある洗い桶で水浴びをしておったのだそうだ。たまに日中在宅していたから気付いたものの、もしや以前からと観察しておった所やはり、岩ちゃん宅の台所と雀の風呂は共同の設備だった。
ここまでしっかり付け込まれた乱暴釣り師は、やむなく別の「雀様ご用達洗い桶」を準備するはめに。
これがここ数年続いているらしい。
乱暴者が言います。
「ここ数年当たり前のようになってな!」
「が・・・・・」
「それが有る季節に成ると突然来なくなるんじゃ、それである時期が来ると又来る」
突然来なくなる時期は「乱暴釣り師」によると、田んぼに水を張って田植えがはじまる頃らしい・・・。
そういう釣り師は一寸寂しそうでもある。