備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

かくある素人は「大物釣り師」に成りえるのか!

 

 

 久方ぶりの釣行は、こうも気分の高揚を招くものかと、釣りなどと申します世迷い事に、今日も足並みは早足となるので御座います。

 

 

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 早朝、まだ薄暗い折からうごめく釣り師は、喜色万面 はや自分の都合で膨らました夢に酔いしれております。こうやってああやって、又釣れたわい。

真にたわいも無いささやかな夢である事ですが、これが頭の先から足の先まで、体中を支配しているのですから、立派な有夢病者ということに成って参ります。

 

 「おお!浪士さん浪士さん!」

 

 食料調達のコンビ二で声を掛ける者がある。干からびた声の主は昔は「開かずの秀やん」の名で鳴らした上等の釣り師だ。

何故「開かずの・・」と言うかと申しますと、釣り場に座り込むや否や自分の世界に没頭いたしまして、海上の生ける地蔵さんと成って参ります。

小用を足す時ぐらいしか動きません。このような有様ですから他人のちょっかいなど欠片も受付ませんで、終日地蔵のお勤めと言う事で御座います。屋外で引きこもり状態と

いうことで、見えるけれど見えてはいけない、丸見えの扉を閉ざしたお地蔵さんと言う役回りの事で御座います。

 この開かずの兄さん、病に倒れる事となって最近では釣行がめっきり減って参ります。

 

 「浪士さんよう、このごろは人が多いかい? 数は揃うかい?型は?」などそこはそれ、根が好きなものですから話はいきおい、釣りのことばかりと成る事でした。

 

開かず 「ところで(中年A)知っとるか ?」

 

 浪 士 「あの熱意は有るが、勘所が少しばかりずれている御仁か?」

 

開かず 「それじゃてや~こないだ雨がそぼ降る日曜日にな、中年Aと一緒に釣行だわ         

     いさー。う~んどうしようか~話すか話さぬか~事が事だけに名誉が~・・

      いいか誰にも話すな!」

 

浪 士  「わかった誰にも言わん、約束する。はよ話して楽んなれ」

 

 

 

 

  「開かずの秀さん」、悪いがさっきの約束は無しにしてくれ、これだけいい話を閉じ込めておくなんざぁ勿体無くて、とても出来たもんじゃあ御座いません。

まあここのところは、話した相手が悪かったと言う事で諦めてくれ。

その上、最近物忘れがひどくて、ちょいと前の約束なんぞはからっきし自信の無いところだ。一昔前の約束なんざぁつい今しがた忘れた所だ 「何!それでも喋るなだと! 分かった口止めをして喋るから勘弁しろ!」

 

 

開かず 「中年Aと出かけた日は曇り空の日で、途中からあいにくの涙雨。わしは合羽        

     の持ち合わせがあったが、Aの野朗準備が足りない。 少々の雨は濡れたと

     ころで我慢もしようとジャージの上下がびしょぬれに成りながら一日釣って

.     おった」

 

開かず  「途中帰ろうかとも言ったんだが、Aの野朗結局濡れ鼠のまま1日竿先

     を眺めておった」

     「何かおかしいと気付いたのは1日釣った夕暮れ時よ」

     「いいか、開かずの秀やんとわしが呼ばれとるのは承知のところだ、そのわ

      しにしても日に数度の小用には立つ、ところが奴さんただの一度も小用を

      足した気配が無い。怪訝に思って聞いたのよ、お前さん今日は一度も小用 

      に立たんが、冷え込んでおろうに尿詰まりの人生糞詰まりかい?」

      「そうしたらあの野朗言い放った言い草が・・・」

 

中年A  「どっちみちジャージは濡れて、めんどくさいんでここでそのまま・・・」

 

 

 「開かず」より余程上手を行く素人は、大物釣り師に成る可能性はあるようにも思えるのだが、何処がどうとは言えないが、どこか違うような気がして成らない。

 

 

 ああ、それと皆さん、「開かず」との約束事も有りますところで、今日のところはどうか御内密に願います。

 

 

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