備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

「猿でも成れるレギュラーに」の落とし穴

 

 

   今年は暑さの中で、スマホ片手に夢遊病者のように、ふらふらと歩き回る人の増えたところで御座います。

 

 夜駅前に行く用事が有ります。いつもとそれは雰囲気の違う事で、大勢の挙動不審者が大勢居ります、挙動正常者が少数成るが故の肩身の狭さ、一歩間違うとこちらが不審者に成りますから、世の中の変化は唐突に生じるもので御座います。

 何やら化け物を探しているとかで、そんなものは見た事はありません、いたらとっくに釣り師の餌食、餌になるか食べられております。

 

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 携帯電話が普及を始めて、だれでも安価に利用できるようになってからは、釣り師も連絡や情報の仕入れに便利に使ってまいります。

 

 便利さと言いますのは反面、持ったがゆえの事故にも合うものでして、海中に哀れ撒き餌となって沈没した携帯数知れず、最近では海中に沈まぬケースや防水携帯、浮きの付いたストラップと対策されたものが出没しております。

対策されたものがこれだけ出てまいりますのは、それだけ海水浴をする携帯が多かったというだけの事でありまして、涙の数が偲ばれるのです。

 

「まあええわ、漁礁にしてやったわ」

とうそぶいているのは新しいスマホを海中に沈めてしまった高下君、精一杯負け惜しみを言うところです。

「撒き餌でも漁礁でもこのごろは値段の高い奴しか効果が無いから、ぶっちぎって釣れるど」と涙目。

「釣れるか! お前さんフェイスブックに釣った魚の料理を載せただろう、ご丁寧に調理手順など載せおって、いまごろそれを覗いた魚はひどい仕打ちに、こりゃたまらんと逃げとるわい」

「今からでも遅うはない、電話は海底だ魚にお詫びの一つも言わんことにゃあ、釣れる魚も釣れませんぜ、はよ電話掛け・・それとも何かい責任とってあんたが永久に海中に沈むか・・?」

電話を落とした上に永久に海中に沈むなどこれほどむごい事もありません。

 

 

 「あんた!どけえおるんね・・はっきりしんしゃあ」

携帯のどこかのボタンに触ったのか、相手の声が外に漏れて参ります。

 

村上さんの長男は高校の新入生の時、「猿でも成れるレギュラーに」の誘い文句に誘われて、硬式野球部に入るのでした。当時3年生が卒業して部員が4名というところ、弱小高校ですので入部と同時にレギュラーに、悪い話ではありません。

ところが「悪い話じゃあない」と思ったのが他にもいた、長男の悪い話といい話が2年続くこととなって、試合に出たり出なかったり。

良くも悪くも最終学年、3年生に成ったら退部する奴もあったりで、再び「猿でも成れるレギュラーに」を持ち出す事に。ようやく試合の出来る頭数が揃ったところで、レギュラー長男 さて予選です。

 

 試合のある日、村上さんは確かに球場に応援に駆けつける予定でした。前日も奥さんや長男と確認しあったところです。

ところが村上さん、当日になって無理やり球場と釣場を取り違えて参ります。当日は潮周りもよく絶好の釣り日和、応援に駆けつけるところが、我慢しきれず海の球場に。

 

 奥さんはこの日は保育園の給食手羽先を配達です。可愛い我が子のことは手羽先の配達中でもそれは気になるところ。

「あんた、どうなっとる・・?」

「・・・ああ・まあまあ」

と、なにやら噛み合わぬ会話の後「あなたは何処にいらっしゃるのですか?はっきりなさっていただけますか」と言う会話に成ったのです。

 

 しばらくの会話の後、何を思ったか村上さんガラパゴスを海中に投げ入れます。

あとにも先にも携帯を落とした人は数見るところだが、投げ入れた人は初めてだ。

おおよその見当は付く事で、釣り師は「ああ平和じゃ、何事も起こっとらん」ここは知らぬ顔の半兵衛を決め込むのが武士の情け。

 

 どう折り合いを付けた事か知らぬが、村上さんは相変わらず釣りに来るし、奥さんは給食の材料を配達している。

 

 携帯は便利さをもたらしてくれたが、不都合な落とし穴もあった。

 

 

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