備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

釣り師が最後にたよるもの

 

 

 暑い!から「熱い!」になって、最近では「アジ~イ~」となっておるのですから、もはや正常な人間とはいえませんで、なかば鍋の中のごろごろしたふかし芋という按配で御座います。

 

 釣場なども日に焼けて前後の分からぬ奴、脱力してふやけた挙句力なく座り込む奴、中には焦点が定まらず、何語か分からぬ言葉を発するのまで有りまして、様々試練に耐えるので御座います。

 

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 「暑いねえ!」とインド人に世間体を取り繕う差しさわりの無いところで挨拶をいたします。

 

こちらは釣り師、上空からの照りつける日差しと波間から来る照り返しで、インド人と見まがうばかりの黒さと成ったところで、「暑さはどうかい」と訪ねて参ります。

 

 「丁度いいねえ・・!」  と汗をたらしながら、さも暑さに慣れたところでこれぐらいの暑さで悲鳴を上げる、素人インド人の軟弱野朗の気が知れぬと言わんばかり、とは言いましてもプロのインド人も暑いのは暑いらしいのです。

彼の子供が何処で覚えたか 暑いという日本語をしきりに使うのだそうで、やはり子どもの頃より年季を入れた暑さ修行がないと、これぐらいの暑さはやはり暑いらしい。

 

 「おい!釣りに連れてってやろうか?」と言います、「そこのところは勘弁願いたい、仕事も忙しい上に炎天下で1日釣りをするなぞ狂気の沙汰だ」と言い、ほんとのところが出てまいりまして、思いっきり尻込みをしてまいります。

「お前さんほんとにプロのインド人かい・・ほんとのところは日に焼けたインド人が見てみたかったのに残念な事だ」と今日のところは見逃してやるのだが、おびただしい香辛料を熱で加工して巧みに操るいい腕を持っているので、一つ釣りを仕込んでみようとは思っている。

 

 

 

 ここはいきなり釣場で御座いまして、板敷きの筏の上に釣り師がへばりついております。こことて暑さの魔の手からは逃れようも無く、それぞれ焼け石に水、禿の毛生え薬程度の気休め暑さ対策をするところで、いくばくかのお目こぼしを期待するので御座います。

 

 

 暑さ対策と言いますと、多くは筏の上にパラソルを立て日よけといたします。風の無いときには良いのですが、一旦風の神様が寝返りでも打とうものなら、一斉に朝顔のようにまくれあがって花盛り、いかだの上は鮮やかな色とりどりの花で賑わうので御座います。

 

 それぞれ思い思いに対策はとるところで御座います。ある者は機能性の優れた着衣と言う事で冷たく感じる物や汗を外には出すが中には入れないものと、様々宛にして参ります。

財力や知力の無いところでは、もっぱら古典的な裸に近い者、やたら水を流し込む者等と、ひたすらやせ我慢と体力勝負に励んで参ります。

 

 あるとき体格のいい若い衆、これが水を流し込む体力勝負に出てまいった。何しろ柔道の重量級ばかりの体格ですからその飲みっぷりの良い事、それだけで絵に成るのです。まるで風呂の水を吸い込む排水溝のごとくですから、独壇場と成りまして他を寄せ付けては参りません。

 

 クーラーから大量のボトルの水を次々に体内に流し込みます。当然下からも出るところですが、大半は汗に変わって塩分とともに体外に、シャツなど白く塩が浮いております。

 苛酷な環境下、重量級を支えるのは大量の水分と食い物、こいつを生かしておいたら地球上の水と喰い物は全てしゃぶり尽くさんばかりの勢いで御座います。

重量級を水と食い物が支えている間は、瀬戸内海はやたら資源を浪費する重量級が目立つ程度の事で、波風はたってはおりません。

 

 この重量級がかなりの勢いでトイレに駆け込む辺りから様子は変わってまいることで、数度トイレを往復した重量級、今度はうずくまり「痛い」と腹を抱えおります。

 

パラソルをかざす者、撒き餌で汚れたタオルをそれでもすすいだところで頭に乗せる者、とても釣りどころの騒ぎでは御座いません。

結局救急車を手配してもらって船頭を呼ぶところです。

 

「痛い・・かちゃかちゃ」 「かちゃ・・痛い」

重量級が途中から呪文ともうめき声とも付かぬことを言い出します。釣りどころでは無い釣り師も、初めて遭遇する理解できぬ成り行きに、手出しがかないません。

 

「かちゃ痛い」船に乗りその声が小さくなる。やがて橋を渡る救急車の音を聞くに付けまだあの呪文を発しているのだろうかと思いながら、「かちゃ」とはいったい何のことだろうかと釣りに戻るところだ。

 

 後日、入院を三日ばかりした重量級を見舞った輩があります。

急性胃腸炎日射病であったらしく、輩の言うには腹痛は冷たいものの摂りすぎか喰物が悪かったのか分からぬところらしい、実はどうにも抑えきれない好奇心に背中を押されて見舞ったと言います。 そうです、あのなぞの呪文「かちゃ」の正体を知る為にです。

 

「かあちゃん・痛い」とは通常の事で、釣場のようなところで急に、それも激しい腹痛に襲われると

「かちゃ・・い・た・い」になるらしい。 不可思議な呪文の謎もこう言うことであった。

 

「かちゃ」が奥さんの事を指すのか、母親の事なのかは分りかねる所だが、耐え難い痛さに襲われた時、最後の頼りは「かあちゃん」に成るのだろうかと、それぞれ釣り師は思うことだった。

 

 

 

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