備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

カープが優勝した次の日の釣場の顛末

 

 

 世の中にはよく「何年ぶり」とか申します事がありまして、どちらにいたしましても久しぶりに遭遇する事で大層喜んで参ります。

 

 人間よくしたもので、無いと成ったら途端に欲しくなる、無いものねだりと言う事で御座います。

子共の頃、秋の山には松茸が、無造作にごっそり。子供の手でも拾い集める体で、開いたものなど「開きじゃ!」と、さも邪魔なものの扱いで、ひどい時には足蹴になどしたものです 。

所が近頃では山に入る人など少なくなったところで、山の手入れなど行き届きません。

松茸など欠片も生えぬこととなって、久しぶりに手にしたときなどこれをさも貴重品のように扱うのですから、随分自分勝手が行き届いたものです。

 

 

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 あれでもまかり間違って「優勝」するかもとは、思ったことは有ったのです。しかし25年も無いと成りますと、かなり深刻な無く成り様で御座いまして、金を出したら手に入る松茸よりも無いのですから深刻です、つまり松茸よりも貴重なものと成って、どちらの皆さんも猜疑心の塊と成るのでした。

カープの優勝はそれは喜んだところですが、そこはそれ25年ですから間際まで決して気を緩めることなく疑って参ります。

 

 そんなところの優勝が土曜日で御座いまして、さて日曜日渡船場に気分をよくした釣り師が集まるところとなって参ります。

早朝それもいつもより少々早めの時間に出てきておりまして、道具を下ろした後いつもは、顔見知り同士、戯言で時間を潰すのですが、この日はどういうわけか車内に閉じこもっております。

何のことはありません、どなたもスポーツ紙など読んでほんとに優勝したのか確かめるところです。 何しろ25年です。

 

 昨日の優勝が夢ではなかったのが確認できた釣り師は、これはまあ喜ぶ事で、

 

「どうも永い間お待ち頂いて申し訳ありませんでした、昨日本願を成す事ができましたのも、ひとえに変わらずご支援いただいた皆様の御蔭と、まずは中心よりお礼申し上げます」

と球団代表に成り代わって挨拶するものが出てまいります。

 

「ようやく皆様の期待に応える事ができました。有難う御座います。選手一同の頑張りも有って優勝できました。これからクライマックス・日本シリーズと試合が続きます。皆さん優勝しましょう」

と どうやら監督に成った積りのやつ。

 

「最高です~す!」

選手気取りも出てまいります。

 

「こうなったらビール掛けがいるじゃろう!」と言い出すのは乗り合いで来て、運転しなくていいやつ。

何のことは御座いません、一向に人様にはかけて参りませんで、己の口にかけてまいります。どうのこうのは有るところで、結局は飲む口実が欲しいのです。

 

 「さて頃合も良し、胴上げするか!」と言う段に成ります、これはどちらもしり込みをいたします。

 知れ足る事、最後の悲劇が待ち構える事は、釣り師の性格からしたら容易に分かる事。

 「ここは250万円で船の修理をして苦労の多い船頭の胴上げが筋じゃろうて」と筋かどうか分からぬ理屈が賛同を得るところとなって参ります。

 

 この喧騒から微妙に距離をとって、目を合わさずどこかよそよそしいのは、岡山から来た釣り師で「隠れ阪神ファン」と言う事で、広島で阪神ファンと言うのは物悲しく肩身の狭い事でした。 

  

  「船頭胴上げじゃ、はよ降りて桟橋に行こう!」何のことやらわからぬ船頭はただならぬ雰囲気になかなか車を降りようとはいたしません。

「今日は休みにするか、皆返ってくれるか」などと申しまして程よく抵抗をするところです。

 

 釣り師はここでようやく釣りに来たんだと思い知ります。

船頭もようやく胴上げから海中に放り込まれる難から開放されます。

 

この日はぼろ負けの試合と成ったんですが、余裕とはこうも人を変えるのか

「心行くまで点をやれ、ほんまは一軍と二軍を総入れ替えで、二軍を前線にだしゃあええんじゃ」

日頃、罵声を浴びせる連中も、変に物分りが良いところになって目出度い釣りと成るのでした。

 

 隠れ阪神ファンを除いて、終日機嫌の良い釣り師を見ておりますと、果たして彼らは

野球ファンなのか釣り師なのか、輪郭がはっきりしない事だった。 

 

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