備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

釣りをじゃま立てする「三匹の爺」

   

 

 

 日常と申しますのは、有る物が有るところに収まって波風が立たぬことをいうのでありまして、これに何かが無くなったとか突然何かが現れたりいたしますと、風雲急を告げたところで違和感に世間が騒ぐので御座います。

 

 

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 冬場の手慰みに竹竿を作ろうと手下共と伐り出した竹を乾燥させるために、束ねたところで林立させます。寒風に程よく晒すのが具合のいいところで、頭などはもうすっかり完成したところで回っておりますので、製作途中を省く誠に都合のいいところで心地よくなっております。

 

 

 自分勝手に心持ちの良いところで油断の一つもしておりますと、この林立した竹が波風を立てることとなって参りますので用心しなければなりません。

 

 

  日常の中に竹の束を立てられた町内の衆、ばあさんは背中を搔く孫の手を止め、野生の猫はあくびをやめ、あれは何ぞやとすぐに成るのですから余程暇なのか好奇心が旺盛なのか、竹の顛末を早速探りに参ります。

 

  好奇心は有れどなぜか遠巻きに歩く散歩の人など、ひとたび隙を見せますとジワリとその距離を縮めてまいりまして

 

 「竹をぎょうさんこと、何なさるん?」と軽く探って参ります。

 

もちろん連れて歩く散歩の犬も事の顛末に目を凝らすことになります。野生の猫も遠巻きに注視することとなって、竹を何に使うのかから始まってどう加工するのか、どんなものができるのかを事細かに説明させられます。

もちろんここまできますと町内とその連れの犬はたいそう距離を縮めて間直まで迫って来ているのはいうまでもありません。

  

一応得心の行く説明を聞きますと町内とその連れの犬、遠巻きの猫など「なんだそんなことか」と一様に馬鹿馬鹿しいと言う顔つきに成るのですから、説明のしがいなどこちらが思うほどには町内にとっては大事ではありません。好奇心さえ満足させれば他人事なのです。

 

 さて林立した竹の顛末は町内に知れるのはじきの間でして、町内の衆は町内の衆に、犬や猫はその仲間内に耳打ちした上「浪士の野朗、金が無いので釣具の自作だと」と余計な事まで付け足すのですから、浪士の野朗をあざけった所で事は目出度く収まって参ります。

背中が痒い婆は再び孫の手を動かし始めますし、猫などは恋人探しにいそしんで参ります。犬などは「まあこんな事なら行きがけの駄賃、今度の散歩のついでに小便の一つもかけておくか」などと画策するのですから、竿を作ると言うのも並大抵の辛抱ではできるものではありません。

 

 事件というのは忽然と生じるものですから事件に成りやすいものでして、あらかじめ用心すれば起き難いものです。

 

三人の爺が散歩がてらこちらに来るのは用心したつもりのこちらの隙をついてまいります。近づくやいなや・・・

 

「おお、竿を作るんじゃてな、聞いたで三人とも杖が要るんでなええぎゃあに漆を塗るまで教ええや!」何処で聞きつけたか偉く親しげに声を掛けてきたのは、人間の形はおぼろげながらあるものの、遠の昔に崩れて出汁にも使えそうにない骨董品だ。

苗字をいちいち書くのも忌々しいので番号表示するところだが、爺の言うに・・

 

  一番

「病院でのお、竹の杖をついて歩くとなぁ皆見るんで、いまの杖じゃあ貧乏たらしゅうていけん、漆う塗ってええぎゃあにしたい」

とまあこう言うのだが見ると切り出した、なるほど竿に使う布袋竹の半分朽ちかけた杖をついている。

どうやら今の杖で皆の注目を浴びるなら漆塗りの杖なら婆さんの一人も難破できるだろうという魂胆らしい。

  二番

「屋根から落ちて太田病院行ったが、足が悪いんは頭から来とるらしゅうてな、よう歩けんけえ仰山杖を作って皆に配るんじゃ」

とまあこう言うのだが杖を足がかりに話し相手が欲しいのと、暇な時間の暇つぶしにしたいらしい。

  三番

「わしゃあ昔カミナリ族でのお、いわしたんで。まだバイクに乗りょうるけえのお、漆を教ええや、二本ついたらよう歩けるじゃろうて」

とまあこいつはこう言うのだが、現役で家業の煎餅を焼いておればいいものを杖を二本ついて、早く歩く積りらしい。爺の暴走など見られたもんではないとは思うのだが。

 

 この三匹の侍成らぬ、三匹の爺はそれぞれ思惑は違えど、揃いも揃って漆塗りの竹の杖が欲しいらしい。そこでなんだともかく教えろと言うのだ。

 

 まあ教えるのはいいが、この三匹押し並べて耳が悪い、いきおい声も大きくなる次第で、傍目からは喧嘩をしているように聞えなくもない。散歩の人が揉め事でもあったかと言い出す始末だ。

 

 年寄りだ、聞き訳など端から無いし刃物を持たせるのも物騒だ、覚えも悪いところで特にこの三人行儀が悪い。その上同じ事を何回も言うし、とりわけ始末に悪いのが敵は24時間365日休日と来ている。

 

 三匹に取り付かれ悪夢の毎日、それでもよき日というのは有るもので風はなし天気も良くてそれは釣りです。

準備を急ぐところ、ただならぬ気配・・・・しまった油断した。爺が二匹出てきた!

「今日は何ゅうするきゃあのぉ」聞き訳のないのに何を言っても無駄、都合のいい事は聞えて都合の悪いことは聞こえない。

 

 

「あんたらはこの先短いところで杖を作ってお迎えを待つ、誠に目出度いがこっちはお迎えにはまだ間がある。やることはあんたらと違って仰山有るわい、今日は返れ」

 

「病院で竹の杖をついて歩きゃあみんな見るんで」

「屋根から落ちて太田病院行ったら、足の悪いのは頭から来とるんじゃそうな」

 

一匹はどうやら風邪で今日は来ないらしい・・・

 

 

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