備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

「さんかべえとお」の横山君のことだ 筍をめぐるイノシシとの闘い

 

 

 さて季節の到来ということでございます。 何がと申されるところですが、地中より筍が恐る恐る顔を覗かせるんでございます。

 

 筍にしてみれば顔を覗かせたが最後、いつ人間やらイノシシに襲い掛かられて食われてしまうかもしれません、顔を覗かせるのは命がけのこととなってまいります。

 

 

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                       *これは本文と関係ありません。 同居する犬です。 モカといいます。

 

 

 

 この度はそんな筍に襲い掛かる「さんかべえとお」の横山君とイノシシが骨肉の争いを繰り広げてまいります。

 

 

 

「さんかべえとお」と皆様方にはあまり聞きなれない言葉だと思います。

 

 この言葉を解説いたしますと、これは方言なのか通常用語で一般に知られているものかは定かではないのですが、われわれの地方では山河(さんか)において、浅ましく魚を獲ったり、、山においてはキノコや筍を漁りまくって、ほいと(物貰いや泥棒)のごとく立ち回る輩のことを言うのです。

 

  横山青年ほど生まれてこのかた、世をなめ腐ったやつはおりません。

大きくなめ腐って人生が変化をし始めるのが高校のころでございます。

 

 家業が鉄工所の息子ですから、勇んで工業高校の門をたたきます。

青雲の志など端から持ち合わせませんで、ここで「なめくさり」の顔が大きくその顔をもたげてまいります。

 

 高校もしばらくするとその授業内容がまどろこしくっていけません。溶接など家で見よう見真似ではありますが小遣い稼ぎにやっておるうちに、学校の先生より場数もこなしますのでずっとうまい、一体全体まどろっこしいのは当たり前。

 

 持ち前の性分もあるところで、学校全体がまどろこしいのは我慢ができないいこととなって途中でおさらば、めでたく家業を継いでまいります。

 

 さて、そのうち他人の釣りを眺めておりますと、これはたやすそうだ他人の様がまどろこしく思えて、これまたなめ腐ってまいります。

 

「ふん!こんなものは赤子でもできるわい・・!」

 

 

 釣りなんぞたやすいものよと取っ掛ったのはこれは軽はずみ、まどろこしく思えた釣りは複雑怪奇、すっかり行儀をされます。ざまあみろ。こちとら今だあがいて居るわい。

 

 

 ここから一念発起、基本から積み上げてようやく様になって安どいたすこととなったのですが、その頃より家業の仕事がまどろこしい。

 

 思い切り舐め腐って、世を凌ぐのはどうでもなるわいと独立を企てます。

なまじ腕があるのですから、どの様にでもしてくれるわいと思ったのが軽はずみとなって、世の中から腕だけでは渡れぬとこれまたすっかり教え込まれます。

 

 

  何とか一本立ちを果たしたのはかなりの月日のたったころ、白髪が生えるころとは申しませんが、なめ腐った代償はかなり払ったところで、日ごろ鉄に焼きを入れている鍛冶屋が焼きを入れられたんですから世話ぁないんです。ざまあみろ。

 

 まったくもって簡単に世渡りなぞできると鍛冶屋は思ったのだが、痛い目にしこたまあってしばらく知り合いのうちから姿を消しました。

 

 5~6年経った頃でしょうか、またそのうち顔を見るようになりますとあら不思議、仕事は出来る上に、人を動かすまでなっているのですから、人は変われるから侮れないのです。

 

 

 かくして真人間になった横山鍛冶屋職はじっと安定を好みません、ある日・・・

 

「今が旬ですけえの・・メバルといっしょに炊いたらええですで」

 

と、土嚢袋にいっぱいの筍をくれます。

 

「どうしたんなら?よっぽど八百屋を脅してせしめたか?」と申しますと

 

「目覚めた・・この季節は筍に限ります、釣りも面白いが筍に限ります」

 

彼の筍堀りは「食べたいが為ではなく病的に掘る」というのがその有様でして、どの様な筍掘りかと申しますと、掘って掘って掘りまくり、土嚢袋に10袋、その日掘らねば帰らない、誠に大量収奪のみの全く芸のないものなのです。

 

 この季節の筍は人間様だけのものではありませんで、イノシシなども当てにしております。

ここに、とにかく掘るわ掘るわ、草も生えぬではなく筍も生えぬように掘りまくるやつがおるのですから、ことは深刻です。

 

 イノシシも考えましたな、早い者勝ちに持ち込むか、千円でも包んで今日の処はご勘弁をと卑屈に出るか・・・・ちょいと居場所を変えて筍が食える処に移住するか・・・

 

 

 激しい攻防戦を繰り広げるうち、先に音を上げたのがイノシシ、こんな無慈悲に筍を漁るやつのそばでは暮らせないと、多数決を取るまでもなく全員そろって遁走・・

 

 

  かくして村からイノシシがいなくなったとさ、目出度し目出度しなのですが

 

 

  そこで問題なのだ、病的に固執して掘った筍だ、そりゃあ最初はみんな喜んで少しはもらってくれた。旬のころになると筍責めが始まって、まるでいじめの如く筍を押し付けられるので、最初はよくてもしまいにはいい顔をされない。

 

 困って深刻になると考えますな、何かいい手はないか、大量の筍を消費する・・・・

 

「あった・・!」

 

 かくして次なる善意の被害者は、居酒屋に始まり食堂、レストラン、行きつけの食い物屋。

 

 

 最初のころはいいんでございますよ、少しばかり多い気がするがまあ旬のことだし、と、隙を見せて頂いたのが悪かった。そのうち処理に困ることになるのです。なめ腐った振る舞いは何事も大やけどにつながります。

 

  

  「おい、居酒屋へ行ったら大きな顔ができるのお」

 

  「え‥!! 全くもって居酒屋なんかにゃあ顔だしゃあしません」

 

  「どがんしてなら‥可笑し気な奴じゃのお」

 

 「どけえ行っても、筍ばっかり山盛り喰わされるなあ  恐ろしい」

 

 

 


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