備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

ハズキルーペを掛けた釣り師はかく語りき

 

 

 わかりやすいお話ということでございます。

 

 人間年を取りますと体のあちこち不都合が出てまいりまして、こんな筈ではなかったにと思ってはみるものの、如何せん世間様の見えぬところでその醜態を悟られまいと、悪あがきをするものでございます。

 

 年取って目が悪くなったのでハズキルーペを使用したという単純なお話。これが悪あがきかどうかはさておいて、その周辺のことを少々。

 

 

 

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 全く分かりやすいところで、「目」など年齢を重ねるごとに、確実に衰えてメガネなどで修正を図ってまいるのですが、最近そこに現れ出でたる新兵器「ハズキルーペ」なるものが出てまいりました。

 

 

 寄る年波にやせ我慢を重ねてメガネを着用するのを引き延ばしていた老人釣り師木下さんは、矢も楯もたまらず堰を切ったように、コンタクトからメガネへと修正を図ってきました。

 

急激な対応を迫られたのは、釣りをする場合 糸の結びや糸通しなど細かな作業を迫られるからなのですが、目が悪くてはそれが全くうまくない。

 

目の不自由さは急激な変化を遂げて、どうにも具合が悪く目が見えない。困り果てて切羽詰まったところに「ハズキルーペ」ですよ。

 

 

 物は試しと使ったところが、流石 救世主です、まったくもって具合がよろしい。

 

 

 

 わかりやすい性分の木下さんは立派な年寄りですが、年に比べると目が悪い上に、最近とみにその視力が落ちてまいりました。

 

 

釣り師にとって釣り場で他の釣り師に後れを取るなどあるまじきこと、まったく恥以外の何物でもありません。

他の釣り師はもうさんざんに食い荒らし、これ見よがしに魚を釣りあげております、こちらはそれを後目の段取り最中とは、ここまで人間落ちぶれてはなりません。

 

 

 

 木下さんはいい腕を持っておるのですが、いかんせん目が悪い。後れを取ること一度や二度ではないところ、さんざんに後塵を拝しておりました。

 

 

 「考えてみたらずいぶん長い間細かい作業が難しくて時間がかかったんですが、ハズキルーペをかけたら ほれこの通りいとも簡単にホホイのホイ」、試しにとちょいと拝借したところ具合はよろしい、釣り専用に開発されたものではないので少しばかりは使い勝手が悪いのだが。

 

全く釣り師が水を得た魚のようになるのですから、これほど目出度いことはございません。

 

 

 魚まがいの釣り師になったホホイのホイ木下さんは、好調をしばらく続けておりました。

 しばらくと言うのもあっとの間で、ある時からひどく足を引きずっております。

 

 

「どうした?誰にやられた?・・仕返しに加勢したろうか?」

 

「いえ ちょとね・・・ハズキルーペが・・」

 

ハズキルーペにやられたか、よし、株主総会に乗り込もうかい・?」

 

 

 口を濁して要領を得ないのを、なだめすかして口を割らせたところによると

 

 

ハズキルーペは椅子に置いたまま座っても壊れんということで知り合いの前で実演したらしいのです。

釣り師が魔法の眼鏡を手に入れたうれしさついで、うれしさ余って余計な実演宣伝に及んでしまった。

 

「メガネは良かったんじゃが、尻の痛さと端っこに座ったんで、そのまま倒れ込んで、膝をやったんです」

 

 

惜しい・・!  惜しい・・!   実に惜しい。

 

 

どうして目の前でやってくれんのじゃ・・! 格好の話題を臨場感たっぷりに提供できたものを。実に惜しい。

 

世の中なかなかこちらの都合よくは回ってくれないものですな。

 

足を引きずる釣り師はしみじみ言いました

 

 

ハズキルーペは敷くもんじゃあなく掛けるもんでした」

 

 

ハズキルーペが壊れたかどうかは聞いていない。

 

 

 

 

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