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備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

お山は逃げんでのう、惑うのは人間ばかりじゃ

 

 

 ここ福山は瀬戸内海の真ん中辺り、大阪と九州方面から満ちの潮がぶつかるところで、これが引きの潮とも成りますと正反対にそれぞれの方向に逆戻りするのですから、ここはまさに真ん中近辺なのでございます。

 

 この真ん中近辺といいますのは案外厄介なもので、海水の循環が上手くありません。

つまり暖かな海水があまり入ってこないのですから、海水温が上がらない。それに連れて魚の活性も上がらないと成るのですから、釣り師は頭を抱えることとなるのです。

 

 

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   魚の食いが悪い季節の釣り師はさぞかし陸に上がった河童だろうと思われるのでしょうが、これがどうしてこと釣りに関してはめげるものではございません。

 

ある者は道具の手入れや仕掛けの算段、ある者は不足のものなどの準備などと忙しく立ち回るものでございます。余った時間など不足の無いところで新しい着想で釣りを企てる者など、あらぬところに顔を出したり、怪しげな占いの本を読みふけったりと、怪しげなのが余計怪しげになる者まで現れる始末、実に釣り師といいますのは年中退屈と縁遠いところに居るものでございます。

 

 

 さて浪士の野朗と成りますと、これが昨年辺りから竹の竿や釣具を作ってまいります。

出来上がった物、粗末なれども見せびらかしたいやら自慢はしたい、まことに浅ましく立ち回っておりますが、これにまんまと引っかかり表面の出来栄えに騙される手合も出て参りまして、にぎやかなところが一段の賑やかさと成るのでございます。

 

 

 「ひとつわしも作りたいけぇ教えてつかあさい」

というのは森川くん、定年後の手慰みにもっけの幸いと飛びついて参ります。日ごろは頼まれ仕事やボランティアで日を過ごす浮き草のようなもんで、自身も筏で釣りをしますので、腕のほうはさて置いたところ、道具などで引けを取ってはと目論むのです。

 

 

 「こがあなんで釣りをしたら目立つけぇ教えてつかあさい」

というのは村上くん、釣りはバス狙いの釣り師で人目にどう映るかと言う見栄えが気になる若い衆だ。

就労支援のNPO何とかの代表で日頃気苦労が多いので、目立つところで発散したいらしい。

 

 これに漆の塗りを教えて欲しいというやつに、ほら例の三匹の爺が杖を作るという奴が加わりまして、半ば腐りかけたのもある葡萄の房のように成って参ります。

 

 爺は竹を良く乾燥させねばと一ヶ月ばかり猶予があるので竿作りの二人が当面の相手、早速に竹の切り出しから始めます。

 

二人には同じ事を教えません、まず切り方は村上くん枝の払い方は森川くんと分けます。同じ事を二度繰り返すのは手間ですし、相手の足らずを教えたほうが身に付くからです。 まあ好き勝手切らせて参ります。

素人の浅ましさで、やたらめったら自然破壊をした二人は満面の笑みで帰って参ります。

 

「ご苦労なこって、大層な竹をご両人いかがなされるお積りか・・・?」

「・・・・・・」

「この太いのは釣具に使い道がござんせんし、細いのは弱くてもって行き場が無い、さあいかがなされる。

大体最終の形から割り出して材料なんぞは切り出すもんだ、有るからといってむやみやたら切るってえのはつつしみが無い、竹にも親もあれば子もあるこった無体な事はおよしなさい」

「お山は逃げんでのう、惑うのは人間ばかりじゃ、今から取って返して切り直し、やれいけそれ行けドンと行け」

 

  

 さて今度はどうにか使えそうな切ってきた竹を一週間ばっかり乾かしたところで、二人には油抜きと曲がりの修正を分けて教えます。そしてお互いが足らないところを教えあうのです。

 

「あっ・・折れた・・」

「あっ・・焦げた・・」

「ものには程度と加減があるでのう、これをわきまえん事には埒が明かん」

「お山は逃げんでのう、惑うのは人間ばかりじゃ、今から取って返して切り直し、やれいけそれ行けドンと行け」

 

 何とも間食にあわぬことですが、こうしないと身体で覚えた事に成りませんで、しっかり骨身に沁みこまさなければ成りません。

 

「身体で覚えると忘れんもんじゃでな、それが必要なんは竿が出来る、それを見た人があんたらに教えろと言う、程度も加減も経験済みで無いと教えられんじゃろ、どうだ浪士様の偉大さが分ったか」

 

 

「青かった竹が枯れた色になって・・・・」

と言う森川君の奥さんに向かって森川くん

「これは油抜きをして天日に乾かすとこうなる、火を入れるたびに硬くなるし虫も死ぬ、男は口には出さんがこれくらいの知識は持たんと凌いで行けんのじゃ、こんなことは若い頃から知っとる」

森川くん布袋竹のたけのこは随分美味いといわれる、君たちが採って来て皮をむくそれを浪士様が頂く、近来無い美しい話だと思うが・・ 

今度奥さんに会ったら一切合切ねんごろにお話をさせていただきますか、それとも黙っといてくれと言うなら黙らぬでもないが・・。

 

 

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