「明けがらす」に取り付かれた釣り師の春は遠い
以前の記事で「十一」(といち)と「まばたき一」などと申します街場の金融についてた書いたところです。
お初の方にはわかりますまい、「といち」というのは十日で一割の利子が入用だということで、「まばたきいち」というのは瞬きを一回する間に一割の利子が、付くというのですから開いた口がふさがらず、挙句には口中に飛び込んだ雀が巣を作るんでございます。
以前、このことについては書いたことがあるのですが。どなたかカラスが「カアー」と泣いたら一割の利子がつくと聞いたことがあると指摘されました。
こいつは「あけがらす」といって、朝 カラスが鳴くと同時、一晩で一割の利子という、誠に乱暴な常人では伺い知れぬ街場の金融のことです。
世の中それでも必要とする需要があるそうなのですから、まったく伺い知れない世界とは存るものるなのです。
インド人の知り合いが言います。
「友達が金融をやりよって、同じインド人に金を貸すんだ。決められた利子を毎日取り立てて一日中街をうろつく、これを365日飽きもせず繰り返すね」 「飽きもせず・・」などと、どこで覚えたかとこちら、のほうが気になったのだが・・
とにかくそういう具合なんだそうだ。
日本にも日掛けというのがあって、毎日決まった額を取り立てて回るんだそうで、これは利子が一割、10日で返すんですが、これは割と少額のことが多いものです。
川崎君は今 静岡県に旅に出ているところですが、たおやかな皆さんと違い観光旅行ではございません。
高額の賃金を求めてやむなく旅がらす、明日はどこの空を拝めるのやら全くもって見当がつかない、言われるままに日本全国を飛び回らされております。
彼が望みもしない旅をさせられているのは、大訳ありのこんこんちき、新しい釣り具が欲しかったからなのです。
こんこんちき、釣りを始めた時からそうでした。カタログを眺め言葉巧みに、購買意欲をくすぐられ、いいように騙くらかされたところで我慢ができない。
手持ちの金は手薄と来たところで、この日掛けに手を出した。
これだけのつもりがあれも欲しい、これぐらいならいいかと思っているところに新しいカタログが手渡される。
自分では足し算ぐらいはできると思っていたが一度堰を切った我慢の糸は釣り具メーカーの糸に比べたら、そりゃあ弱かった。
ま 早い話が借金の返済に追われ、より高額な賃金を求めて旅の空に追いやられたというわけなのです。
「どけえ居るんなら・?」
「今、静岡で足場を組んどるんですが、早よう帰りたいですがの、あと半年ばかり」
再婚して子供が2歳、かわいい盛りが想像されるところで、本人は帰りたくてしょうがない様子なのだが、過去の代償はあと半年、強制労働を強制します。
釣り具と同じではないのでしょうが、今の奥さんとは一緒になりたいのが我慢できず、生きるの死ぬのとひとしきり騒いだ挙句、目出度く新台入替。
「あんたはもう少し腰を落ち着けんと、釣れる魚も目の前の道具に目移りして首をかしげるうちに他の釣り師にさらわれてしまう、こりゃあんまりうまくない。
ひとつの道具がこなれたところで、不具合の一つや二つ、それの宛がい扶持が次の新しい道具という寸法だ」
「あんたは、今の道具の良しあしが分らんうちに次の道具に走る、これじゃあ道具の運動会、釣りをせずに道具の尻を追いかけるたあ珍しい釣りもあったもんだ」
「ちいたあ反省しとるんですで」
分ったのか分らんのか、とにかく川崎君の春はあと半年待たねばなるまい。