どぶねずみ銀行員の釣り
「こんにちは、お邪魔します、あのですねえ・・・」
「こらまて、そんなに慌てるもんじゃねえ、慌てたところで余分に金は返さねえよ、なんなら返すの止めてもええぞ」
豆本 江戸時代からある文化だそうだ 私の友人が作っている
息せきって飛び込んできたのは、貸した金以上の金を返せという、どう考えても理不尽な事をする、どぶねずみ色のスーツを着た、釣り好き銀行員だ。いつもは生真面目そうな風を装っているのだが、今日はやけに嬉しそうである。
あこう 「どうしたい隣の90になる婆さん、子供でも生んだかい?」
銀行 「いえいえ、今度の日曜日、家族連れで釣りに行くんですよ、バーベキューをして釣りをして、どこいったらいいですかねえ・・?」
あこう 「何だそんな事か、夜逃げの準備中に飛び込んでくるから、心臓が止まったぞ、どうしてくれる?」
銀行 「いえね、気の利いた魚を釣って、家族に威厳を示したいじゃあないですか。魚が釣れる所です。釣り方と一緒に教えて下さい」
あこう 「威厳ときたか、お前さん威厳とは最も離れたところにいる人類だからなあ、それにあんたの腕じゃあ、威厳どころか、面目丸つぶれが落ちだ、あきらめな、ところで威厳名人は何が釣りたいんだ・?」
銀行 「鯛、鯛なんかいいじゃあないですか、焼いてよし、刺身でもよし、あ ひらめも釣りたいなあ、高級魚のあこうなんか最高っすね」
あこう 「おい、眩暈がしてきた、心臓も今日2回目の停止だ、あ、急に子宮がんになった、悪いがもう今日のところは帰ってくれ。おい言うに事欠いて贅沢に並べてくれるじゃあないか、そんな天国みたいな所があるんならわしが先に行く、おう、お前さん銀行員で顔広いだろう、これからお客のとこ回っておんなじこと聞いてみな、なかにゃあ御存知の方が在るかも知れん」
よほど事を分けて教えてやりましたが、威厳名人は物足りなさそうなのでした。
あこう 「 お前だから教えてやるが、あるといえばあるんだ、天国みたいな所がな。あんたの釣りたい魚はたいてい釣れる」
銀行 「どこですか~教えて下さい」
あこう 「水族館だ!」 「いいか金は返さんからな」
たく、こんな奴が背後霊のように後を付いてきた日には釣れる魚も釣れません。この威厳野朗へたくそなんですよ、それでも釣り好き、教えろ連れて行けとうるさいの何の。そのくせやたら本など買い込んで、知識だけは脈絡無しにひけらかす、講釈を垂れるのだ。 知識と実践がこれほどかけ離れた奴は珍しゅうございます。こいつの辞書には、最初から最後まで「へたくそ」の文字しかないに違いありません。
人それぞれで色々思い込みなど違ってきますから、特段何も申すことはありません。しかし知識をひけらかすのは、さすがにある程度の腕の裏づけありませんと、頭でっかちのそしりは免れません。
この威厳名人はしばらくして転勤になったのですが、何も音沙汰がありません。理不尽な銀行などやめて、今は立派な漁師になっているはずです。
ええ、お借りしたお金ですか?、銀行には毎月きちんと返させられています。