釣り師が釣りを始めるまでの社会的苦悩!
鬱陶しい梅雨が明けはもう少しと言うところまでやって参りまして、雨を嫌った釣り師は今度は容赦の無いお天道様に恨み言をいい始めるのでした。
暑さ寒さに雨風の容赦の無さには閉口するのですが、どうのこうのと言っては釣りに出かけるのですから、世間様から眺めると、凝り性のうつけ者ということで御座います。もちろん哀れみの眼差しを投げかけられるのはいうまでもありません。
朝早くから血走った眼でいい大人がいそいそと、天界から下される神罰など恐れる風も無く準備にいそしんでおります。
朝早くは、ひとり釣り師だけでは御座いませんで、ここぞとばかり縦横無尽にスーパーカブを乗り回す新聞屋さん。車も人も少ないゆえそれは乱暴な事で御座います。
そこに早朝からの散歩の人・・目覚めの早い年寄りの多いことです。
これらから始まって様々に、人の賑わいが加わって参る事と成って参ります。
朝方の陸の上の人間関係というものは、決まりきったところで顔なじみなど成りまして、互いの境遇など推し量って挨拶を交わす、たがいに己のありようと見比べたところで差しさわりの無い言葉を交わしてまいります。
新聞 「お・・今日は釣りかい・・遊べて羨ましい事だ・・どこで何を釣るんかいの
お・・」
通り一遍の心ここに無い忙しいばかりの挨拶。
散歩婆 「ありゃ!又魚釣りに行くんの?よお飽きもせんで・・よっぽと面白いん
じゃねえ・・へえじゃけどあんたぁ、ちいたぁ家のことしんさらんと」
うるせえ!婆さんあんた人の詮翔焼くのもいいが、特別養護老人ホームの手当てをしたほうがいいんじゃあありませんか?順番待ちが大変らしいよ・・
それに婆さん、いつも抱いているその犬だ・・! 毎日散歩をさせなきゃあいけんので大変だとは言うが、その犬歩いとるのを見たことが無い、犬を抱えて散歩させられているのはあんたじゃないかい?
コンビニ 「いつも有難う御座います。 から揚げがお安くなっています。お弁当は
50円引きです。 700円で1枚くじが引けます。あ、残念です応募
券ですね 、 今日は釣りですか?」
「うちの店フライヤー容量が大きくなって魚のフライなんかすぐ揚がるん
ですよ・・いっぺんに何匹でも・・」
うるせえ! 魚のフライが喰いたきゃ魚屋と良しなにしな! それに「今日は釣りですか?」だと・・店員によっちゃあ「今日も釣りですか?」とほざいていただけるところだ、余りの温情に涙の出るところで、あんまり人間関係の距離を縮めないでくれ。
カスガ釣具店 「ワンワン!」
おお!悪いゴンちゃん・・今日おやつ切らした・・すまん。行き届かぬ事でこの不始末必ずやお返しをするところだ、今日のところは勘弁してくれ!
「ワンワンワン!」
「釣れるといいですね!」
とはおっしゃいますが、魚が少なくなった上の乱獲だ、何処に釣り師の立つ瀬が有るとおっしゃるんで!
船頭 「お! どうした浪士様。 筏の営業はとうにやめた、何しに来た?」
何をこしゃくな!安っぽい冗談が挨拶代わりたぁ随分な侮りだ・・
後生で御座います、筏の一角でもお借りできる事で、今日のところは手慰みの一つ、やらせていただくわけには参らぬか。昨今筏で釣りをさせろと法律の出来たところだ、ここは浪士の顔を立てて・・・・やいこら、はよ船出せ ・・!
よくもまあ毎都度、釣りを始めるまでにくぐらねば成らぬ事だ。