「ゆず」に「ごん」と言う名前をつけてやりました。この犬のほんとの名前はどう呼ぶのでしょうか
忘れられない名前というものは有りますもので、頭の隅にこびりついているものですから、つい節操無く使ってまいります。
釣りに行きます。人間様の食料に魚の食い分、釣れましたら自分の食い分におすそ分けの食い分と、随分な宛がい扶持を段取りせねば成らぬ事です。
秋の時節、いよいよ釣りにとってはよい季節と成りまして、釣り師だけでなく取り巻く人たちも浮き足立ってまいります。釣ってよし食べてよしですからいきおい人間のほうの活性が上がってまいるところで御座います。
さて魚に食わせる「餌」と称するもの自分で賄ってもよろしいのですが、随分と手間隙を要するものでして、安定的に量が必要なものですからいきおい釣具屋さんで購入すると言う事に成って参ります。
年金組みなど自分で川や池、海辺などを徘徊して餌のエビや蟹など獲ってまいります。時間がありませんとこうは行きませんから、やはり釣具屋さんです。
この餌集め、これが面白い上に大量に取れた場合釣具屋さんに売れますから、釣りそっちのけで専業に成った方もおいでです。芸は身を助けます。魚の餌を獲る技術など備えた人は数はおりませんから、やたら同業が増えると言うわけには参りませんで、老後の結構な生業に成るところです。
さて行き付けの釣具屋さん、ペットの犬を飼っております。「ゆず」と名付けて手入れも行き届いた小型の可愛げな犬です。
浪士様など犬を見ましたら家の「ごん」を思い浮かべるのですから、すべての犬がゴンで御座います。
釣具屋さんの「ゆず」にも「ごん」と呼びかけるので御座います。
随分と迷惑な話では有ります。店先に愛犬を連れてきたら、客が勝手に名前をつけて別名でも反応するのですから困った事です。
「ゆず」の正式な名前は、「カスガ釣具」が苗字でありまして「カスガ釣具ゆず」が戸籍上の正式な名前です。
これに勝手に「ごん」と名付けてまいりまして、おやつなど与えて手なずけてまいります。
なあにかまう事はありません、もともと人間がつけたものですし、「ゆず」の両親がつけた名前もあるはずですし、神様が付けたほんとの名前だって有るはずですからね。
魚にいたしましても山一つ越えれば呼び名など違ってきますし、だれにもほんとの名前なんぞは分かるわけがありません。キスだってほんとは鯛かもしれません。
うたかたの仮の呼び名でしょうよ全てのものがね。
と申しますところで、ゆずは目出度く「カスガ釣具ゆずごん」と呼ばれるのでありました。
カスガ釣具ゆずごんちゃん
釣場におきましてはその人の苗字、つまり世間様で通用する仮の名前でも呼ぶところですが、大概はその人の特徴から取りましたあだ名などをつけまして、釣り師仲間の潤いとするところです。
そうなんです釣場で特徴的なへまなどやらかしますと、それは惨めなあだ名を頂戴する事になるのですから、釣りをするということは幾重にも注意の網を張り巡らさねば成らない事なのです。
哀れな犠牲者が気の利いたあだ名を付けられまして本意か不本意かは存知ませんが、皆から呼ばれてまいります。 ほとんどは釣り師仲間意外に知られたくない呼び名である事は間違いありません。