釣り師の遁走 「この期に及んで何を今更・・はよ逃げよう・・!」
口ほどにも無い、他人様の口車に乗ってこの期に及んで当てが外れると言う事は、この世に数多くちりばめてあるものでして 、唖然としてこの度も当てが外れて参るので御座います。
よくある話で、己の大きさを実態以上にひけらかしたいが為にちっとばっかり背伸びをしてまいりまして、この期に及んで大きく罰の悪い目をする、己にもそこいらにもそれはよくある話で、浪士様も若い頃は自分を大きく見せたいが為、つい背伸びをして罰の悪い目をしたところです。さすがに今は身の丈で生きるのが楽でありますから背伸びは控えておりますが。
釣場で与太話をしております。
浪士「おいなんだな、布袋竹とやらはなかなかに無いもんじゃなぁ・・」
石原「あるで なんぼでもあるけぇ採り放題 何なら案内するで」
浪士「おう!それはよき話じゃ!ところで地主は分かるかい?手土産の一つも持参せ
ぬ事にはお互い夢見の悪い事などなるからな」
石原「ああ気にせんでええ、道路が通るんで国が個人から買取った。工事の際はどっ
ちみちブルでガシャよ気にせんでええ」
浪士「そりゃあ誠によき話じゃ、何分良しなにお頼み申す」・・・礼。
捜し求めていた布袋竹とは、根元辺りが布袋さんの腹のようにふっくら盛り上がって、釣り道具に 特に竿の握り手で有るとか玉網(タモ)の柄に至って都合がよろしい。
黄門様など杖にご利用なさっていたのでご存知の方も御出ででしょう。
この布袋竹 この界隈ではあまり見かけないもので、人づてに探しおったところでまさに渡りに舟、千載一遇、脳内マラカス・タンバリンまさか釣場で出会いがしらの成り行き、 早速に日時を定めて出かけてまいります。
浪士「おお!貴殿 なるほど群生しておるな! ああ有難や有難や!早速に刈り取ろ
う。貴殿も刈るのか?それにしても神様仏様有難う御座います」
石原「わしはもう有るからいらん、あんただけ刈ったらええ」
と申しまして何やらもぞもぞとしております。どうも様子に一抹の不安を覚えたので
浪士「おい! ここはほんまに国が買取った土地じゃろうな?」
と問いただしてみると・・・
石原「・・・・・だと・・思う・・」
などと、この期に及んで小声で言い放つではありませんか。
浪士「 だと・・思うだと・?おいおい随分と話が微妙にすれ違ってやしませんか」
石原「・・・・大丈夫・・と思う・・・」
浪士「何が大丈夫じゃ!ちょいと間違ったところでお縄なんぞは具合の良い話たぁ
とっても言えねえ。どうだいお前さんが刈ってくれ、それを浪士様が頂く
こりゃあとってもいい話だと思いませんか?・・はぁ?・・」
背伸びをちょっとした釣り師は一向に竹苅を始める気配が御座いません。目の前のお宝を指を咥えて思案六法・・・
浪士様は考えましたな、そして出した答えが、(ここは民主主義の多数決しか有るまい。)
浪士「どうだい 神様仏様はとっくに逃げた、ここで固まったところで前にも後ろにも動くあてが無い、お互い数本頂いてて早速に逃げるに賛成の人挙手を願います」
さすが民主主義、早速に秒速で数本切り出します。枝打ちをして車に積み込みます、手際の良い事流石は釣り師、無駄な動きなど微塵も無い事です。
この手ですと、背伸び釣り師の面目もいくらか立ちます。さあ次は・・・!
「はよ逃げよう!」