備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

迷える子羊! 迷える釣り師!

 

 

 秋深しとも成りますと、取り急ぎ活動期のやり残しなど、これが最後とばかりに動き回るもので御座いまして、あわただしく成って参ります。

 

 

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 これが最後のよすがと成りますと、中には慌てふためくものも出てまいる次第になりまして、それぞれ失敗などしてほころびを晒して参ります。

浪士様などこれを格好の記事ネタにしてまいるのですから、人が悪い事この上ないので御座います。

 

 最近釣場の様子がちと変わってまいりまして、雁首並べた釣り師がどれもこれも、それは用心してまいります。何故なのかと申しますと、かなりの釣り師がブログで紹介されまして、この上生き恥など晒すわけに参らぬ事態と成っておるからなのです。

事件の内容によってはすぐに特定されますし、下手をすると実名まで書かれることに成ります。 仲間内での事は、釣場におきまして個人保護法なんか有るわきゃぁ無いのでありまして、油断も隙も成らぬ無法地帯で御座います。

 

 さて用心いたします釣り師が増えた事で、ネタなど探さねば成りません。世の中良くしたもので、あちらが立たずばこちらに出る杭、などということになって新たなネタ元、あるいは新規被害者の登場と成るところで御座います。

 

 この人の場合まったくの素人、初心者と言う事で御座いますから、手心のほうなどかなり加えてやることです。何せ何も知らないのですから言いたい放題なのですがどうも様子が違って参ります。

この方半年ばかり前から釣りを始めたのですが、陸からの釣りで御座いまして、ファミリーフィッシングやら他の釣り師が散々荒らした後で御座います、魚などろくなものが残っておりませんで難渋いたします。

瀬戸内の沿岸部といいますのは、それは山賊が散々荒らしたあとのような状態で、大きいのはもちろん、小さなのまでさらえて有りますので、それは釣れては参りません。

 

 この方散々あちこち苦労いたしまして釣り歩くのですが、お布施に大枚をはたく人ならいざ知らず、普通の釣り人にいい目など神様も見させてはくれません。        

困り果てて浪士様のところに駆け込んだということで御座いまして、これはねんごろに仕込んでやらねば成りません。

 

電話をかけてまいります。

「この道具を買いたいのだがどうか・・」

「それはこれこれだからだめ、あれにしたら・・」

「はい!」

とまあ普通の会話で御座います。しばらくすると又電話が掛かって参りまして・・

「釣り雑誌によるとあの製品ではこの機能が無いので、こちらのほうが・・」

「ばかたれ!お前さん腕のほうは達者かい?駆け出しのお前さんにゃあこれからトラブルは付き物だい、それに腕が上がって来るに釣れて道具も自然に変わってゆくもんで、足りないところがわかってはじめて機能が必要なんじゃ!」

「はい! 分かりました」

ここも普通の会話で御座いますが、こ一時間もしますとまた携帯の呼び出し音です。

「あちらの雑誌でやっぱり、この機能は外せないとあるのですが・・・」

「あのな、それは、事が分かった人の道具、お前さんじゃあその機能に振り回されるやめときな」

「でも・・」

とまあ万事がこの調子で、聞いてはおりますが何にも聞く耳を持ちません。日に何度も電話が掛かってきます。最後は好きにさせたところ、これがまあトンでも御座いませんで、きらびやかに最新兵器で武装して参ります。しかもこの場合はこの道具、あの場合はこの道具と、一流品の上級者向けの道具ですから何を釣って参るのか首をかしげる事で御座います。

さぞかし大枚をはたいたであろう道具なので御座いますが、どう見てもそれは神社の賽銭にでも使ったほうが効果が有りそうな道具立てでありました。

あらゆる事態を想定して、最善のものを準備するなど見上げたものでありますが、何事も過剰に成ってはいけません。

世に準備を万端整えてから事を始める人などあります。また進みながら道具なぞしつらえる人も有ります。どちらがいいとも申せません事ですが、過剰に走るのはいかにも安定感を欠く事です。

 

 後日一緒に釣場に出かけました。そこには道具をもてあまし魚も釣れず、迷える釣り師がたたずむ事でありました。

 

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