備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

船頭は250万円の借金をどう返そうとしたか・・

 

 

 そろそろ本手の秋を迎えることと成りますと、次第に気になるのが隣は何をする人ぞ、ということに成って参りまして、人様の振りが気になって参ります。

 

 そこに行きますと釣り師の秋なぞと言いますのは、到って分かりやすく、やはり釣りで御座いますから、どちら様も安心して捨て置くので御座います。

 

 

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 さて、捨て置かれた釣り師の運命やいかに成りますものやらとご心配の向きもあるところ、そこはそれ世の中よく出来ておりますもので、これを拾って参るものが出てまいります。

 

 船頭と言いますのは釣りいかだの経営を手がけるところ、客有っての商売ですから喜んで釣り師の一向拾って参ります。何がしかの口銭でいかだの送り迎えが生業と成るところで、250万円掛かった船の修理代を漁協に返済せねば成りませんから、それは浅ましく拾って参りたいのですが、そうあからさまに態度に出すわけにも参りません。

 

 

 その船頭の、皆に読まれきっている、小市民としか言いようの無い振る舞いは、朝一番から衆目に晒されるのでした。

 

 船頭は島の南側に生息、渡し、の事務所はその反対側にある桟橋にかなり広い駐車場を備えている。

毎朝、客の有る無しに係わらず岬を廻って半円形の湾を軽トラを走らせて参ります。

 

  

 早朝釣り人の待つ事務所に向かう軽トラが岬を廻って現れてまいります。結構なスピードで、さて今日の上がりはいかほどかと期待に胸膨らます速さと成っております。

結果が早く知りたいので御座います。

 

 

 湾の向こう側、半ばと成ったところで車のスピードが、ガクンと落ちてまいります。これは今日の客数を駐車場の車の数で推し量ろうとするもので、漁協に対する返済の浮沈が掛かるところ、切実なところとなって参ります。

 

 ここで速度がより一層遅くなる場合は、客数がやや心もとないと見た時でありましてそれは目を凝らして数の確認をするので御座います。

逆にこれが速度の増す場合が御座いますもので、客数が確認できぬほど多い場合は喜び勇んで浅ましくアクセルを踏むのです。

 

 対岸の駐車場でこれを眺める釣り師は、今日も船頭はもったいぶってぎりぎりのお出まし、早足に成ったところで「おい今日の船頭、集金しとうてたまらんらしぞ」などと申しまして、どんな顔を見せるか楽しみにする事で御座います。

 

 

 船頭は大概出船間際に現れるのでして、決して早く来て客を待つことなどいたしません。そこは物欲しげに客を待つ姿を見せたくない、ささやかな自尊心のあるところとなって参ります。

あくまで何食わぬ顔で、さも大儀そうに演ずるので御座います。

 

 

 今日は船頭にとって大漁、客の多い日で喜ばしい所ですが、

「あんたら何しに来たん」

と、さも身入りの大小など微塵も気にしていない風を装うのです。当人にしたら気の効いた冗談の積りなのでしょうが、毎度この手のかなり貧相な冗談は釣り師には一向に効きません。

 

「今日は麻雀大会じゃろう」

「今日は100切るど、早よコースに連れて行け」

 

まあ好き勝手をいうものです。

中には「わしゃあ酢豚定食と餃子」などと極端に訳のわからぬことを言うのもある事で、ひとしきりの賑わいを造るのです。

 

 送迎の船足にしても何が有ってこの船足なのか、島内の揉め事なのか艶っぽい諍いなのかおおよそ見当の付く事となって、釣り師の面々無責任に話を膨らますのです。

 

 ついこの間の事、250万円で修理した船がやけに突っ走って参ります。少しばかりの波でも速度を落として衝撃を和らげるところですが、今日は普段と違います。

 

皆何があったのか憶測できぬところでしたが何のことはありません、後日食堂のおばさんの言うことには

 

「竜っつぁんな、馬鹿じゃけえ、あんたらが釣りょうるときに抜けてなぁ、売り上パチンコもって行って巻き上げられとるんで。私しゃあ言うちゃったんじゃけ、よう行儀ゅうしちゃらにゃあいけん」

 

と言う事であったらしく皆得心の行く事であった。

 

 船の修理代の事も有るし、馬鹿な手段には違いないが、少しでも増やせたらというのは分からぬことでもない。

 

まあ竜っつあんの立場も有るこった、客の一人も呼び込んでやらねば成るまい。

 

 

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