酷暑の釣り師 「おとなしく白状してもらおうか」
本日も暑い中、釣り師の出船前と言う事で御座いまして、罰当たりの面々集うところとなって参ります。
この暑い中で御座います、余程の好き者か世間知らずの素人しか出頭はして参りませんで、あら方は暑さに引き篭もるのです。
朝もやの島の食堂、漁師好みの味付けで人気の「船長さん」
この季節の釣り師といえば、それは魚を釣ると言う事も有りましょうが、確かめると言う事もして参ります。
確かめるとは、この環境の中で魚がどの様な習性を持ち、どの様な喰い方をするかと言う事を確かめるので御座いまして、それを知るには酷暑に耐えた者しか分からぬ機微である事です。
社会保険労務士で独立したての浪間君(仮名)は、食えぬからと周囲の独立開業阻止の包囲網を掻い潜って今は晴れやかなところです。
かなりの良い会社で、それなりの収入が有ったのですが、どうしても独立開業がしたい、結構な年端で苦労する事もあるまいと言う周囲には目もくれず、早まったのです。
周囲の目論見どおり、なかなか定まりきった社会の枠には入り込めません。
一時は労働基準監督署の臨時職員ということに成ったのですが、これも目出度く雇い止め、今は何とか食いつないでおります。
波間「浪士様 明日釣りに行こうかと・・どんな具合です?」
最近やたら丑三つ時にもかかわらず電話をかけてきます。まさか幽霊に出世したわけでも有るまいに釣行を思い立つのです。
波間「明日はオキアミとさなぎの2本で勝負、これで大丈夫ですよねえ・・」
と言いますから、その餌と腕が有ったら何にもいらぬ、下手に神頼みした日にはお礼の賽銭を弾まねば成らぬ事で、余計の経費が入用のことだ、あんたの腕なら釣れると適当にあおっておきます。何しろこちらは眠いのだ。
この男が2種の餌で納まるわけがありません。密かに他の餌も持参したところで鼻を明かそうなど、知れ足るところです。 もしもし、抜け駆けと隠し事は密な謀をめぐらした上で行う事、すぐ底が知れるような子供だましは、清く正しい大人の行いでは御座いません。
後日釣具屋さんで労務士は何の餌を準備したかな?と問えば、きらびやかに準備したに違いありません。
彼は何処で経費を捻出したものか、まあ貯え等有る事だろうから、こちらが心配することではないにしても、最近やたら釣りに行く回数の増えたところだ。
「波間名人、今日は何の餌が当たり餌かな・・オキアミかい」
「はい、その餌がよかったです」
「エビじゃあどうだ?」
「はい、そっちのほうがちょっと良かったです」
「お前さんオキアミとさなぎだけじゃあなかったんかい」
「途中で思い立って・・・エビも・・」
奴さんこれ以外にもきらびやかに数思い立っもので、思いつくもの全て準備しておりました。
「お天道様は全てお見通しの上、調べは付いておるところだ、この期に及んで嘘偽り申すこと相成らん、おとなしく白状しろ、さもなくばご先祖様に連絡する」といいますと、素直に白状するところで、以後の取調べもつつがなく進みます。
もう少しで「嘘を言ったり親の言う事をよく聞かない子は、あんな大人になりますよ!」と言われかねないところでした。
この暑いのに何が哀しくて自分で確かめましょうや、出来ることなら他人のふんどしと掛かりで確かめるに越した事はありません。確認作業の下請けと言う事で御座いまして、具合の程は丁寧にほじくり出してまいります。
この労務士、最近では男の花道を独立開業で飾ろうとしたのか、いつでも好きな時に釣りに行けるので独立したのか判断しかねているところだが、最近抜け駆けの多いところだ、もしやとは思っている。