備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

釣れないから突くのか、突くから釣れないのか 釣り師から突き師に成った釣り師

 

 

 宙釣りの前川君、梅雨メバルもお終いと成ったところで手持ちぶたさと成るのでした。

 

 前川君と言えば、海中の中層にいる魚にとっては随分迷惑な人物である事で、あれやこれやの手練手管で、今日も海中の魚を煙に巻いて参るので御座います。

魚の習性を知り尽くし、海底の地形まで頭に入っております、その上で絶妙な誘いで相手の弱いところをくすぐるのですから、誠に性質の悪いことで御座いまして、いかに食物連鎖の上位に位置するとはいえ、血も涙も無いやりようである事です。

 

 

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 さて魚と申しますに、では一年中前川君の餌食に成っておるかと申しますと、そこには拾う神のあることで、一時期には前川君の毒牙がかすりもしない、三味線弾けども踊りもしない時期と言うのが御座います。

釣場は筏で、固定されておるところと成りますと、時節のめぐりとともに季節の魚が入れ替わって参ります。目あての魚もいずれには姿を消してしまうのですから、これは逆ねじ撒いていくらがんばったところで、名うての名人と言えどもいない魚は釣れません。

 

 さて前川先生流石の釣り師、工夫をいたすところで新兵器なる物を持ち出して新たな魚を狙って参ります。

 

 「おい!そのなんだ物干し竿・・先端には銛がついとるがな・・いまさら平家の落人狩りかい?」

 「いいや 平家の落人は金にならん、ウマズラハギを突くんよ、こっちの方が美味い、家族が喜ぶけえの」

 

 おどろおどろしい得物は振り出し竿を改造したもので、三段伸ばしの竿先にはよく手入れされてきらりと光る銛があしらってある。3~4Mはあろうかその得物で魚を突くと言うのである。

なんと釣り場で釣るではなく突くと言うのだ。これは落ちぶれたといっていいやら、進化したといっていいやら判断しかねるところだが、どうやらこれで今日は狼藉を働くらしい。

 

 ウマズラハギはカワハギの仲間で、釣り師にとっては実に厄介な魚だ、その小さい口で実に巧妙に餌を掠め盗る。餌盗りの代表格であるところだが針にはなかなか掛からない。肝が大きくなるころには多くの人がこれを珍重するところで、釣れると嬉しい外道ということに成って参ります。

近年 このウマズラハギが底で釣れなくなった。釣り立てた為か個体の数が少なくなったのか分からぬがこれが底にはいない。

 筏を固定するロープに付いていて、潮が緩むと水面近くまで浮いて来て、手足の出せぬ釣り師を挑発するところだ。

 

 ズボッ・! 前川先生の銛が決して鮮やかとはいえぬ、なんとも少々間の抜けた音を立てて海中に突き立てられます。 なるほど銛の先には串刺しと成った哀れなウマズラハギが泡を食った顔をしているので御座います。

 終日うろうろ、「ズボッ!」 しばし間を置いて 「ズボッ!」

 

「これで間抜けなチヌを突いた事もあるが、ウマズラしか突けん。スズキの類はすばっしこうて相手にしてもらえんわ」新手の飛び道具に夢中に成っております。

釣りじまいのころに成りますと結構な数のウマズラがバケツに。 ご丁重にも下ごしらえなど済ませておりますから、皮を剥がれて後は調理するだけに・・・。

 

 これには面食らった釣り師も唖然とするしかないのですが、どうにも納得はしていない風で御座います。 これは釣りといってよいものか・・・いや言えないだろう。

 

 底で釣れなくなったので浮いた魚を突く、しばらくはそれで良かったことなのですが、最近ウマズラが人影の気配がすると深場に潜ってしまうようになったことだ。

 そりゃあ前川君上がったりだ! 最近前川君の顔つきが「こんな筈ではなかったのに」と少しばかり泡を食うところだ。

 

ま、そのうちあの男の事だ、新手を持ち出すに違いない。 

 

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