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備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

釣り場で起きた涙の入水    その時彼らの胸中に去来するものは  その2

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     メバル名人 小林様の御入水

 

 岩下様に続いて、小林様の御入水、この方の入水もせつなく過酷で、涙を誘うものでありました。小林様、大層メバルがお好きで、釣りに料理に こよなく愛されておりました。メバルといえば春告魚とも申しまして、私どもの在所では、春を告げる歳時記のような魚で御座います。春浅き時節、まだまだ冷え入りようやくほのかな暖かさが感じられるようになった頃のことでございます。何の前触れもなくその悲劇は起こったのです。なすすべなく見守ることしか出来なかった、非力な人間の前でなんと自然、神は、人間に対して試練をお与えになるのかと、恨めしく恨めしく・・思うところで御座いました。

 

 忘れた頃にやってくる。悲劇と災害の通り相場です。春の風、突然に吹く春の突風、それは人智を超えた台風並みにもなる強いもので御座います。ご存知のとうり海の上の釣り筏、さえぎるものなど何もない吹きっさらしで御座います。ここに高値相場の突風が吹いたので御座います。

 

 

 悲劇はこの突風で小林様の釣具一式(竿・クーラー・道具・餌・弁当等々)が吹き飛ばされたことに始まります。あっという間の出来事でありました。手立てを講じる間など微塵も御座いませんでした。

 

 釣り師にとって道具一式、それはそれは手足のごとく大切な、なくてはならないものなのです。永年、調子の合うようにセッティングされたタックル、中には血のにじむ努力で効率よく改造された道具もあります。小林様の命の次に大事な手足が一瞬の内に流されたのです。肌を刺すような寒風吹きすさぶなか道具は潮にも押されて筏からだんだんに離れてゆきます。途方にくれた釣り師の胸中に去来するものはなにか?

 

 お待たせしました 小林様の御入水です

 

 このような進退窮まる状況に置かれたとき、人間の考え方生き方が如実に現れます。小林様、頑固一徹、融通の利かぬ職人様で御座いました。道具に対する思い入れは人一倍、私どもも改造のヒントをずいぶんといただいて、利用させてもらっておりました。  元職人様は・・・・・・・

 

 やおら小林様は服を御脱ぎになりました。脱いだものを風に飛ばぬよう私どもに託すと、海水を少しずつ身体にかけ始めます。お姿といえば フルチ・  いえ素っ裸  

少々白いものが・・いえ立派なお姿で、立派なお覚悟で入水されたので御座います。これを涙なくしてなにが語れましょうや。肌を刺すような寒風が服の上からでも辛い季節に、ましてや海中で御座います。世の哀れと無情を思うのは一人私だけでしょうか。

 

 よほどの時間をかけて道具一式無事に回収されました。私どもが差し出すタオルで小林様は身体をお拭きになります。 おや、ご立派と思っていた一物、少々体積、容積・・・・いえいえほんのちょっと・・・何といいますかしぼんでおります。ほんのわずかな変化、釣り師たるもの見逃すわけには参らぬことでした。

    

 

 

この日の小林様,メバルが釣れなかったのはゆうまでもありません。

 

 おのおの方用心めされい。