インドのカレーと釣り事情
ディリープはインドの人で、気候の厳しい国の人であると思うのだが、かなり北の
方の山間部なので、こちらが思い込んでいる状況とは違ってかなり穏やからしい。
彼のお兄さんは飼い犬を「トラに食べられたよ!」「トラが村の中に入ってくるよ」と言いますから、かなり危険な穏やかさなのだろう。
おなかに西瓜を丸ごと詰めた様なお兄さんの腹は、見た目にも異様に大きい。インドの人の目は白目の部分が多いのでギョロリとしている。ぷっくりぎょろりのお兄さんは、こちらでインド料理の店を10店舗ばかり展開している社長さんだ。
当初ディリープはお兄さんの店で働いていたが、念願の自分の店をようやく持てたところだ。彼は日本に来て5年ほどだが勉強熱心で、日本語検定に挑戦しているくらいだから達者に日本語が操れる。下手な冗談や、これは分かるまいと言うような悪口まで理解しているので、それこそ下手は打てない。
魚が余程釣れた時に、店に届けたことがあった。ステンレスの洋包丁を持ち出してさばこうとしたのだが,これはなまくらだった。三枚になどおろせはしないのでこちらがご丁寧にさばいたことだ。これくらいのことであるから、当然刺身は食べられない。のりも駄目だそうだ。
「収入はいくらくらい?」
「僕と結婚するのか、それとも収入と結婚するのか?」
と言って射止めた奥さんと所帯を持って、今は子供が生まれたばかりだ。
結婚の祝いに包丁を一本贈った。
「はあ、外国の料理人さんですか、じゃあステンレスの包丁ですかね・・?」
と言う古手の刃物店の店主に・・
「いえ和包丁のしっかりした奴をください。手入れがいるが和包丁の切れ味を教えたいんでね。それにさびが出て切れ味が悪くなったら手入れの仕方も教えますから。」
「痛い目にあわせたいんですよ、どの道すぐ切れなくなって、さびさせますから」
ディリープのインド料理は美味しい。何でも香辛料の類を20ばっかり操って作るらしい。同じ店でも調理した人によって味が違うと、此れは味覚のすくれた人の評だ。このディリープが釣りに連れて行けとうるさい。この間の魚を見て色気を出したらしい。そうはうまく行くもんか、あんたに簡単に釣られたんじゃあ、今まで苦労したこっちの立場はなんなんだ。
折を見て悪魔の趣味にこいつも嵌めてやらねばなりません。あの数の香辛料を扱えるんだ、覚えるのは早いだろうな。魚はカレーの中にぶつ切りにして入れ込んで食べたらしい。今度は三枚下ろしに刺身を叩き込むか。
インドの田舎ではめったに釣りをする人など無いようだ、魚はいるらしい。釣事情はどうなっているのか今度詳しく聞いてみよう。知識が無いようだったら帰国させて調査してもらおう、それがいい。
釣りを教えるのもそうだが、折角こちらに来たんだ、いま・・・・・
「渡世の義理」と「一宿一飯の恩義」を教えている。