備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

三百代言と「あこう浪士偽弁護士事務所」

 

 

  世に様々仕事などあるところで、真っ当なのからかなり如何わしいのまでそれは多様に取り揃えてございます。

釣り師といいますのは職業ではございませんで、魚を獲る事で生業をなすのはこれは職漁師の領分、釣り師といいますと魚を釣る事に他人様よりよほど固執したところの蕩尽者のことですから、くれぐれも漁師の方とお間違いなきよう取り計らいをお願いするところです。

 

 

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「師」と名の付くもの、詐欺師・山師・地面師などとあまり褒められた扱いは受けぬものでして、いずれもひと山当たるか当たらぬかの瀬戸際で成り立つものでございます。

これが同じ「し」でありましても「士」と成りますと、公的な資格となって権威がございますし、世間の扱いも雲泥の差、天地ほどにも違うのですからゆめゆめ間違いなど有っては成らぬ事なのです。

 

 「士」がふらりと自転車を揺らしながらやって参ります。

この士は弁護士でこれから数時間は世間話と肝心の用向きに付き合わねば成りません。

 

 弁護士と言いますとそれは権威と敷居が随分高いものでございまして、社会的にも一目おかれるところですが昔は公事師とも三百代言とも言われ、かなり安手の手間賃でお上との間を取り持ったそうなのであります。

中には嘘八百を並び立ててお上を翻弄するものもあったとかで、八百代言とも呼ばれたそうなのですが、名称はともかく様子はいまも昔もそう変わるものではありません。

 

 自転車の弁護士はかなり以前の出入りで知り合います。その内こちらが「あこう」の釣り師であることが知られる所となって、年数匹は気の利いた魚を献上させられることとなって参ります。

 

 この自転車の「士」成るもの何処で目覚めて覚えたのか、魚の中でもいたって「あこう」を好んで食してまいります。

この好物の魚をへりくだった所で献上するのかといいますと、そこはそれこちらにも思惑のあるところで、誰がただでやるものですか。

 

 ほとんどの人にとって弁護士だの裁判だのと言いますと縁遠く敷居の高いものです。浪士の野朗弁護士に知り合いがいるらしいということに成りますと、なんとかうまくとりなしてほしい、直接話すのは怖くもあるしどうにも具合が悪い、事前に話でも通しておかれると敷居のひとつも低くなるというもんだとこうなるのです。

 

 相談ごとなど有りましていざ弁護士につなぐと成りますと、事前に取り調べの上要点をまとめ準備する資料やら相談の手順を伝授します。まあこれで相談者も弁護士もかなりの手数が減るというもんでして、この時点で「あこう浪士偽弁護士事務所」が晴れて成立します。

釣った魚も困った人の仲立ちと成るのですから、浮かばれる事必定とりあえず橋渡しをして・・・

後は知ったこっちゃありません、野に成ろうが山と成ろうが当事者同士解決に向かえばよいことと成ります。

 

  さて、この「あこう」好きの代言人がやって参りまして言うには・・・

 

「この度新しい法的見解で本を出したんじゃ・・これが画期的なもんで、誰もまだ踏み込んだことのない領域での、法曹界は一変する事受け合いじゃで、まあ読んでくれ」

 

 ということでこれが見るも無残な、本には違いないが、かろうじて本といえなくも無いかなりみすぼらしい表装をした本をくれます。

 

 後日「読んだかね・・!」などといいますから「貴重な本で御高説を賜っておるところ、只今鋭意前向きに取り組んでおるところで、読んだところなど一字一句空覚え! いますぐ試験に出ても100点であるところは間違いない」と言っておきましたが・・

 

誰が睡眠薬より良く効く眠気を誘うばかりの本など読みますか。

 

 

大体釣り師だって、「新しい角度から開発した釣技で、これが画期的なもの、誰もまだ踏み込んだことの無い領域で、釣りの業界も一変する事疑いなし」とは良く聞く事だが・・

 

 さした変化はいまだ見られない。

  

 

*只今かなり仕事に追われることとなって日常のお付き合いが出来かねるところです。あしからずご了承下さい。

 

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