備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

「といち」 じゃあないよ 「まばたきいち」だよ前川くん!

 

 

 

  世の中には誠に奇妙奇天烈、その上複雑怪奇なことが有りますもので、よほど注意を払わねば、けつの毛まで抜かれる羽目となって参ります。

先日もなにやら耳障りのいい事を申しますので携帯屋に出向いて参りますと、ああだこうだと能書きに責任回避の言い訳をまぶして、挙句巧妙に小銭を巻き上げる算段を凝らしているのですからいけません。

やたら複雑な仕掛けを親切で覆い隠しているのですから、油断した日にはあっという間の丸裸、とても米の飯にはありつけなくなります。

 

 

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 世の中は様々な決まり事や掟でがんじがらめのところ、おおよその常識の範疇に入っておりまして、何の疑いもなく日常は過ぎて参ります。

ところが中には驚くような約束事が有りまして、普通の生活をしておりましたら一生お目にかからぬ生き馬の目を抜くようなやつが潜んでおるものなのです。

 

 「浪士さん針を一本分けてくれん、忘れて予備が無いんじゃ」

「おお、二本でも三本でも得心行くまで持ってってくれ、遠慮は身体に毒じゃでな」

 

前川くんはさも地獄に仏のような安堵の顔に成るのですが、そこはそうは問屋が卸さぬところで

 

「その針は特別誂えたもので一本5千円ばっかりの奴、二本で1万円・・お買い上げ有難う御座います」

「偉い高いなあ安うしてくれ・・金も持ち合わせが無いから付けにしてくれ」

「あいよ、毎度のことで承知乃助、ところで旦那さん付けも随分と嵩んだところで500億位にはなっとるで」

 

目も眩むような借金を前川くんは負っているのですがそりゃぁ当たり前で御座います。何しろ偉い高い針のうえ、「といち」という十日に一割の金利がつくのですから、とても世間様には大きな声では言えません。

 

 

「浪士さんエビを少しばかり分けてくれん、オキアミじゃあ喰わんようになった」

「おお、何匹でも持って行きない 遠慮は身体に毒じゃでな」

 「例によって付けといて・・・」

 

そういう石原さんもすでに500億くらいの借金を抱える身と成っております。

 

 その日はどうした加減か魚が思うように釣れてまいりませんので、退屈紛れのいたずら心、ここは一番からかってやれという具合なのです。

 

「どちらさんも500億は払ってもらおうか、おとなしく耳をそろえてどんと積んでみなされ男でしょうが」

「払えないと成ったらしょうがない今後は(まばたきいち)ということで行くからな」

 

「なんでえ~そりゃあ・・・」

「なにたやすいことよ、(まばたきいち)たあ瞬く間に一割の金利がつくだけの話、ものは試しだ行きがけの駄賃に10回ばっかり瞬いてやる」

 

「何だそんなことか・・・それにしても今日は食いが渋い・・・」

 

 

とまったく多額の借財など意に介しておりません。

そりゃあ何を隠そう浪士様も「前川くん、針の二号を二本ばっかりくれ」「石原さんオキアミ少しばっかり分けてくれ」と思い切り借財が有るのですからご両人それは悠然としたものなのです。

 

 目も眩むような大金を帳簿上、皆持っているのですがそれに匹敵する借財もこれも山ほど持っている。

この「といち」と「瞬き一」表向き社会には存在などしないものですが、金貸しの親方の言うには実際に有るんだそうだ。この世の中には計り知れない仕組みと、窺い知れない事情が密かに存在するらしい。

 

釣場の経済学とは利息制限法など何処吹く風よ、とても世間様にははばかられるところとなってお釈迦様でもご存知ありませんし、ノーベル経済学の先生が束になって掛かったところでまだ誰も手をつけていない分野だ、手探りしか手はございません。

 

 こうして大借金を背負った大金持ちの釣り師の、埒も無い一日は間違いなく暮れて行こうとしている。

 

 

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