備後「あこう浪士」  釣り場の周辺

  釣り場は釣り師の巻き起こす喜怒哀楽に満ち満ちて・・・  さて 事件は釣り場の周辺で起こってまいります!

釣り師の釣る前の釣り

 とかく釣り師などと申しますものはその大概がいい加減なもので、その上あること無いこと与太話のてんこ盛りで、まずまともには相手できぬ代物で御座います。

 

 出船前になにやら薄汚れた一団がたむろして、かしましく井戸端会議などを始めております。

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 これは蜂の巣ではありません 杉玉です 来訪者が面白がって硬貨を差し込みます

         餌代が足りぬときは一寸拝借・・・・

 

 

 そこに現れ出でたのは釣具メーカーのカタログから抜け出たような格好の若い衆。

それはもう今すぐTVロケを始めてもよろしいような、隙の無い若武者振りです。

どうやらイカを狙ってさまよっております。  

 

「ここイカ出るんですかねえ?」 と薄汚れた海賊の集まりのような集団に声を掛けたのが悪かった。それさえなければ平穏な一日であったろうに、海賊が全員顔を向けると・・・・・

 

「ほう 兄さんイカ釣りかね・・・?」と言いながらその距離をじわりと縮めた。与太話の話題がこの兄さんを主体に始まりかけてまいります。釣り師の目はこの新しい獲物を獲た喜びに、目配せをしながらギラリと光り始めるのであります。

 

釣り師 「わしらはイカはやらんから分からんが釣れる場所じゃろう、見てみなイカ

    墨の跡がついとるじゃろう」「他のもんがよう釣っとたで」などと言いなが

    らその距離を更に縮めてまいります。

若い衆 「そうですね、墨の跡が沢山、釣れますねこれは」

 

釣り師 「これがイカ餌木かい、綺麗なもんじゃなあ おお 色も型もようけあるな 

    あ、これを全部使いわけるんかい、あんた相当の腕じゃな ほ~・・」

 

若い衆 「ええ条件によって使い分けるんです・・どうのこうの・・」

 

釣り師 「あんた格好もええわ、竿も高そうじゃのう」

 

若い衆 「これはどうの、あれはどうの」

餌木も格好もどうでもいいのだ。釣り師はすっかり兄さんの周りを半円に囲ってまいります。

 

釣り師 「ほう うまいなあ投げるにしても無駄な動きが無い うん」

 

若い衆 「あおりイカはどうのこうの キャストは正確にどうの・・」

 

イカの兄さんギャラリーが多いため少々緊張気味、時折トラブルやぎこちない動作。

釣り師は餌木やイカにはまったく興味は無いのだ、ただ若い衆の若さや未熟さを楽しんでいるのだ。

釣り師 「さすがうまい もう釣れるぞ」

 

若い衆 「・・・ふう~」

 

釣れそうにありませんな、可愛想なのは餌木、あちこちふらふら、行ったり来たり。

 

若い衆 「皆さんは何を釣るんですか?」

 

釣り師 「チヌやらなんやら、こないだはタイヤを釣ったわ・・ははは・・」

 

ここいらから段々と風向きが、怪しくなってまいります。

 

釣り師 「田島小学校のよい子達が3000匹ほど鯛を放流してな、撒き餌でそれを 

    釣っとる」

    「わしは今日はマグロじゃ、いけねえ電気ショッカー忘れてきた」

    「わしのショッカー3000円で貸すわ・・」

    「今日は地引網でもやるか、当分やっとらんぞ」

 

若い衆 「ほんとは何ですか・・チヌです?・・・・・・・・」

 

 

 釣り師 「兄さんここであったのも何かの縁だ教えてやるから誰にも言うな」

    「実はな兄さんのような餌木を飛ばす奴を筏に連れてって沈めるのが趣味な 

    んじゃ」 一緒に行くか?」

若い衆  「ははは・・はは・・・・」

 

釣り師 「おい昨日何人沈めた?」

    「一人の予定が二人になって疲れたわい。一人が暴れてな・・」

 

 この頃になりますと件のイカ名人は何処に言ったのか姿をくらましてまいります。

なにぶん若い人にはがんばって精進してもらい、立派な釣り師になってほしいものです。

 え?イカは釣れたかですって? いえ誰もそんなものは見た事も聞いた事も御座いませんし、食ったことなど掘っても御座いません。

          食ったのは人だけです。